REPORT
自分の腸を知ることで人生が変わる!?
「腸の見える化」に取り組む企業の想い
対談記事
健康のために腸内環境を整えることが大切であるという考え方が広まり、「腸活」といった言葉も浸透してきている昨今、異なるアプローチで「腸の見える化」に取り組むサイキンソーとサントリーグローバルイノベーションセンター。それぞれの想いや目指す未来、デジタルヘルスについて語ります。
サイキンソー代表取締役 CEO
沢井 悠
東京大学工学部応用化学科卒業。先端医療ベンチャープロジェクトに従事。その後、微生物ゲノム解析技術により有用化学品のバイオプラント開発を手がける企業にて経営企画職を経験。2014年にサイキンソーを設立。
サントリーグローバルイノベーション
センター株式会社 研究部
金川 典正
機能性飲料開発、機能性素材探索研究を経て、現在はデジタルヘルステーマの研究開発、事業化を推進。
健康管理は栄養の入り口である腸から
腸内フローラ検査キット「Mykinso」
金川 同じ「腸」に関わる事業を行う者として、ずっとお話をしたいと思っていたのですが、まずは御社の事業を紹介していただけますか?
沢井さん 私たちサイキンソーでは、腸内フローラを構成する細菌群をDNA解析・評価するという事業を行っています。検査キットを購入し、採便をして送っていただくだけで、結果が届く「マイキンソー(Mykinso)」というサービスがあり、現在までで10万件を超える検査実績があります。
金川 なぜ腸内フローラ検査を事業にしようと思われたのでしょうか?
沢井さん 私は以前から、分析を通じた個人の健康習慣や行動変容をサポートすることをビジネスとしてやりたいと思っていました。ちょうどその頃、腸内フローラが注目されはじめた時期で、腸に関する研究資料などを調べていく中で、腸が「人の一生を決定づけるような重要なもの」だということを知り、万人の健康に資する事業ができるのではないかと感じたんです。
金川 検査・解析サービス全体として、日本よりも海外のほうが進んでいるイメージがありますが、その当時の日本には個人向けの腸内フローラ検査サービスがなかったのでしょうか?
沢井さん 私が調べた限り、日本にはなかったですね。海外の事業者が行っていて、日本でも受けられる検査サービスはあったので、試しにやってみたのですが、そもそも食習慣や体型も違っていて、同じ指標が当てはめにくいと感じました。行動変容を促すアドバイスも、ピンと来なかったので、日本人向けのサービスがあったほうが良いだろうなと。
今度は逆にお伺いしたいのですが、御社はなぜ腸に関わる事業を始められたのですか?
金川 私自身が学生のころから腸に興味があって、消化管ホルモンの研究もしていたこともあるのですが、飲料や食品を扱うサントリーとして、食べたものが最初に吸収される腸をターゲットに研究することは理に適っているし、サプリメントの開発にもつながるなど、その先の可能性があると感じたからです。
沢井さん 分かります。腸は、生物にとって栄養を吸収する入口。だから腸の状態が、全身の健康に波及すると考えるのは自然なことだと思うんです。腸は非常に重要な臓器で、私たちはそこを守っている細菌を調べて、コントロールすることが、健康管理の入り口になると考えています。
手軽にできることへの共通意識
金川 Mykinsoについて、私は以前から注目していて、とにかくすごいと思っているんです。自分の体について、こんなに詳しく知ることができる方法は他にないんじゃないかと。他にも体のことを知る方法や体の様々なデータを解析するサービスは多く存在していますが、腸内フローラの検査は生活習慣も反映していて、良くなったり悪くなったりという揺らぎまで把握できる点が優れているなと思っています。しかも、ただ捨てられるだけの便を使って検査ができるところ良いですね。
沢井さん ありがとうございます。非侵襲であることは最初から意識していて、血液を採ったり、病院では詳しい検査もできたりしますが、特別な工夫をしなくてもデータが取れるサービスにしたいという想いはありました。
実は私、腸noteを使ってみたのですが、本当にスマホだけで腸の音を録ることができて、率直にすごいなと感じました。UX やUIにもこだわっていて、計測している間に「あと少しです」というメッセージが出るなど、飽きさせない工夫がされていますよね。これなら毎日できると思いました。
金川 使っていただいたんですね。ありがとうございます。私たちは3年ほど前から腸の音に着目して、研究をしているのですが、専用デバイスだとなかなか普及しないだろうと感じたので、スマホで録音する方法を考えました。
沢井さん 個人的な興味として伺うのですが、この仕組みを開発するのに、どこが一番難しかったですか?
金川 専用デバイスなら、腸音に合わせて周波数を絞って音をクリアに録れるのですが、スマホだと幅広い周波数の音を録ってくるため、そのようなノイズが多い中で腸音だけを認識させるのが難しかったです。一方、機械学習や深層学習がすごいスピードで進化してきていたので、AIを活用すればクリアできるのではないかと考え、専用のAIを開発して、アプリに実装することができました。
沢井さん スマホにこだわったのは、やはり手軽さですか?
金川 そうですね。食事は毎日するものなので、腸noteも毎日使ってもらいたいという想いがあって、それならやはりスマホだろうと。
沢井さん 私たちも手軽さは重視しているので、アプローチこそ違いますが、腸noteとMykinsoの共通している部分だと思います。日常の健康管理を考えると、やはり家に居ながらできることが重要。腸noteに比べると、腸内フローラ検査は少し手間がかかりますが、それでも日常生活の延長上で自分の健康データが取れます。そういうところで事業を行いたいという想いは、私も強く持っていました。なので、毎日できる腸noteの仕組みは羨ましいです(笑)
金川 いやいや、腸音から取れるデータはそんなに多くないので、私からするとMykinsoで取れるデータの深さが羨ましいです(笑)だから、腸noteを毎日活用しながら、詳しく知りたいときにはMykinsoを活用するというように、両方のアプローチが必要なんじゃないかなと思います。
健康行動はお金を貯めるのと同じ
金川 私たちがサービスを通じて実現しようとしていることも共通していて、「腸の見える化」だと思っています。腸に限らず、この見える化について、沢井さんはどうお考えですか?
沢井さん 健康をテーマにしたときに、「予防が大事」「生活習慣が大事」ということがよく言われますが、その予防自体にハードルがあると以前から感じていました。疾病リスクを下げるためには、やはりヘルスリテラシーが必要になるからです。予防というアクションのハードルを下げるためには情報が大事。見える化することで、予防につながる情報を提供したいと考えています。
金川 確かに、健康のために何から始めていいかわからないという方は多いと思います。
沢井さん もちろんネットで検索すれば、さまざまな情報は出てきます。でも、今の自分にどれが合っているのがわからないんですよね。だから、検査して、可視化することで、道しるべができる。そこに価値があると思っています。
金川 同感です。私も行動変容がキーワードだと考えています。健康行動は、成果がすぐに表れるものではありません。沢井さんのおっしゃるとおり、道しるべとなって、数年とか数十年先にあるゴールを一人ひとりに対して、なおかつ、信頼できる形で示してあげることで、行動変容ができるのではないかなと。最近では、自分の体のデータを見える化するウェアラブルデバイスもあり、かなり日常に溶け込み始めています。それがヘルスケアの一助になったり、何かのアラートになって、その人の意思決定に役立ったりするという未来がもう来ているんじゃないかと思っています。
沢井さん 「健康になる」と言うと漠然としていますが、「お金を貯める」に感覚が近いのかなと思っています。意識しないで過ごしていると、いつの間にか減っている。だから、1日100円とかを貯金して、それが習慣化できると、年を取っても資産形成ができているように、健康的な生活を手に入れることができます。通帳を見て、いくらお金があるのかすぐわかるように、今の健康状態を可視化できれば、次に取るべきアクションの判断材料になれると思っています。
デジタルヘルスで医療を拡張する
金川 予防と言う観点で言うと、日本は高齢化社会が進み、医療費の増大が課題になっていて、セルフケアが求められる時代です。そういった社会的意義もあって、セルフケアを支えるデジタルヘルスも広がってきています。私個人としても新しい技術には興味があって、技術を社会につなげるということをやっていきたいと思っています。
沢井さん デジタルヘルスに関して、薬や医療機器のような治療効果を期待されているものもありますが、情報を蓄えておけるところが面白いと思っています。従来なら病院で診療を受けた、その瞬間の情報しかないですが、毎日モニタリングしておいて、365日の行動履歴をお医者さんが使えるようになったら、より日常の状態に即したカウンセリングや治療ができるかもしれません。デジタルヘルスには、従来の医療を拡張するという支援的な価値があると思っていて、腸noteはそこを目指していくのでしょうか?
金川 セルフケアの先が医療になるということは間違いないので、医療に入っていきたいという気持ちはありますが、我々だけでは正直難しいと思っています。その一方で、モニタリングのセルフケアという観点で、医療機関と提携するという試みは、今のアセットでもできるところはあると感じており、アカデミアの方からも注目してもらっている状況です。
沢井さん 腸の音の研究って、昔からされているんですか?
金川 世界的に見ても、腸の音の研究している方は数人レベルで、ほとんどされていません。臨床では、過敏性腸症候群や腸閉塞などの診断として、電子聴診器で蠕動運動のデータを取っていますし、問診や視診、触診などとともに聴診は古くからアセスメントとして実施されていいます。だから、きっと音からわかることや何かの指標になることはあると考えています。それこそ、腸内フローラのデータと紐づけることで、関連性が見えてくる可能性も十分にあると思っています。
沢井さん そうですね。たとえばですが、食べた物が体内を流れるスピードや時間、菌が分解する時間がわかれば、発酵時間をコントロールするにはどうするべきかなど、関連性はあるかもしれません。そうすればアドバイスの精度が上がったり、適切なタイミングがわかったりといったことにつなげていくことができます。
個人的にも、新しい検査手法が登場することに期待している部分があります。体温計がそうなんですが、先に体温計が発明されて、後から風邪をひいているとか、排卵予測ができるとか、体温という概念に臨床的な意義がついたんですよね。だから、腸音のデータをとにかく集めて研究していたら、新しい意味が後から出てくるかもしれません。腸は検査手法が少なく、ブラックボックスだと言われてきました。でも、細菌叢を調べることで、そこに意味をつくることができました。腸noteで、腸の世界をさらに広げていってほしいです。
金川 ありがとうございます。ソリューションと組み合わせたセンシングや見える化にもチャレンジしながら、腸の大切さをもっと伝えていきたいです。また、弊社だけでは難しいところもあるので、ぜひサイキンソーさんとも一緒に腸の世界を広げていきたいです。
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