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vol.3「今こそが、キャリアをかけた挑戦の真っ只中」 車いすバスケットボール 藤井郁美選手

vol.3「今こそが、キャリアをかけた挑戦の真っ只中」 車いすバスケットボール 藤井郁美選手

男子主体の強豪チーム「宮城MAX」でも主力を張るなど、日本の女子車いすバスケきっての実力者として知られる藤井郁美さん。紆余曲折のバスケ人生の集大成と捉える来年の東京パラリンピックに向けて、彼女が抱く思いに迫った。

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── 今までの様々な「挑戦」から、藤井さん自身が得たこと、学んだこととは?

私自身の車いすバスケの長いキャリアの中で、今こそがその真っ最中と言えますね。東京パラリンピックに向けて、トレーニングでもこれまでやってこなかったことを積極的に取り入れていますし、人生の節目として、ここから本大会までの期間を後悔ないように過ごすための挑戦の日々だと思っています。

── 車いすバスケを始めるきっかけとなった骨肉腫以外にも、潰瘍性大腸炎や乳がんも克服されてきました。様々な苦境を乗り越え、さらに子育てとも並行しながらバスケと向き合ってきたそのエネルギーの源はどこにあるのですか?

当然いちばんの支えは夫(宮城MAX・藤井新悟選手)と息子ですね。それに、練習のときに子供を見てくれる人たちやいろんなサポートをしてくれる人たちの想いを無駄にできないという気持ちも自分を突き動かしてくれています。あとは、やっぱり負けず嫌いなので(笑)、競技者として負けたままでは終わりたくないっていうところですね。ロンドン、リオと2大会続けてパラリンピックに出られていないので、東京でなんとしても勝ちたいという思いは強いです。

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── 2014年に蒼空(そら)くんが生まれて、いちばん変わったのはどういうところですか?

時間の貴重さを意識するようになったこと。それと、若い頃は自分のためだけにバスケをやっていたような私が、これだけ人への感謝の気持ちを普段から持てるようになったのは家族のおかげです。ずいぶん変わったなぁと思います(笑)。

── まさに東京パラリンピックはキャリアの集大成だと思いますが、ここからどんな1年と数ヶ月になりそうですか?

何より、2020年のその瞬間に、しっかりコートに立っていられるような日々のコンディショニングを心がけています。怪我のないよう、体調面を整えつつ、本当に後悔がないように濃密な練習を積み重ねて本大会を迎えたいです。そのためには1日たりとも無駄にはできないなという感覚です。

── 普段の練習の中で、東京の大観衆の前でプレーすることをイメージすることはありますか?

むしろイメージはしないようにしています。なぜなら、私の人生というのは、今まで何かを期待するとそれができなくなることの繰り返しだったので。だから自分にあえて何かを期待しないようにしているところはあります。東京パラリンピックを目標にしながらも、本大会そのものに対してはあれこれと考えすぎず、なるべく自然体で日々の練習と向き合っていければと思っています。実際にコートに立った瞬間、自分がどう思うかを楽しみにしたいですね。

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── 出場が叶えば、これまで藤井さんを応援したりサポートしてきた多くの知人や関係者の方々も会場で観戦できます。そこに対する楽しみは?

私は近しい人たちにプレーを見られるのが苦手なほうで、だからどちらかというと海外で行われる大会のほうが得意だったりするのですが、東京パラリンピックなのでそうも言っていられないですね(笑)。でも、今までお世話になった人たちに、パラリンピックという大舞台でのプレーを実際に見てもらえるチャンスがあるというのは幸せなことだなと感じます。

── 最後に2020年以降のビジョンがあれば、教えてください。

まだ考えていない、というか現時点では考えたくないというのが正直な気持ちです。もしかしたら車いすバスケの選手を続けるかもしれませんし、競技者としてのキャリアは終わりにするかもしれません。それは無事に東京パラリンピックに出場して、試合に出て、その結果どう感じるかにまかせたいと思います!

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PROFILE

ふじい いくみ●サントリー チャレンジド・アスリート奨励金 2期~4期対象
サントリーオフィシャルパートナーチーム「宮城MAX」「SCRATCH」所属
車いすバスケットボール日本代表
1982年11月2日生まれ、神奈川県横浜市出身。小学3年でバスケを始め、県下の有力選手として活躍していたが、中学3年時に骨肉腫によって右膝と大腿の一部を切断。高校進学後に車いすバスケと出会い、20歳から本格的に競技スタート。2008年北京パラリンピックに出場。男女混合チーム宮城MAXの主力として日本選手権10連覇に貢献しながら、女子チームSCRATCHにも所属。夫は宮城MAXのチームメイトでもある藤井新悟選手。

Photos:Takemi Yabuki[W] Composition&Text:Kai Tokuhara

PASSION FOR CHALLENGE
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