ALCOHOL
24.09.03
様々なフィールドで活躍するサントリーの社員=サントリアンにスポットを当て、「挑戦」をテーマにインタビューしていくシリーズ企画。第9回目は2023年4月4日に新発売し、瞬く間に大ヒット商品となった「サントリー生ビール」のブランドマネージャー、サントリー株式会社ビール本部プレミアム戦略部の竹内彩恵子さんにお話を伺います。
発売初年度で約400万ケース(633ml×20本換算)を出荷し、過去20年のサントリービール新製品では最速の記録となった「サントリー生ビール」、通称“サン生”。銀色の缶に「サントリー」と「生」の文字を大胆にあしらったデザインが目を引きます。これからの「ビールのスタンダード」を目指して誕生したサン生ですが、目標としたのは「ど真ん中のビール」。
つまり多くの人が「これぞ自分のビール」と感じていただけるような「グッとくる飲みごたえと飲みやすさ」を追求しました。
スタンダードビール市場は、長年、老舗ブランドが上位を独占してきましたが、サン生の人気はその一角を担う勢い。早くも、「サン生」という通称はスタンダードになりつつあります。
このビールのブランドマネージャーを任された竹内さんは、他社での経験を買われてサントリーに入社した転職組。しかし、最初はビールの味わいの差もわからなかったのだとか。サン生には「あっちにぶつかり、こっちにぶつかりしながらみんなで作り上げた」という誕生ストーリーがありました。
「美味しいものも、お酒も大好き」という竹内さん。「“つくる”に携わりたい」という気持ちからメーカーに就職。国内最大手の菓子メーカーに10年勤め、2020年にサントリーへ転職しました。ともに業界を牽引してきた企業であり、その顔をつくるブランドマネージャーという職務を歴任。
そのキャリアから、華やかな学生時代を過ごしてきたのかと思いきや、「一浪していますし、部活を頑張るタイプでもない。みんなと同じことをフワっとやっている、ごくごく普通の学生でした」と振り返ります。就活でも芳しい成果は得られず、「内定は1社か2社。焦るなかでどうにか菓子メーカーに拾ってもらったんです」。
そんな竹内さんがサントリーに転職した経緯は?
サントリー株式会社ビール本部プレミアム戦略部の竹内彩恵子さん。
竹内さん:前職の菓子メーカーは大阪が拠点。結婚したタイミングで夫が東京へ転勤となり、私も勤務地を融通してもらっていたのですが、それをきっかけに改めて自分の働き方を考えるきっかけになりましたね。是が非でも転職という気持ちはありませんでした。
ところがサントリーの求人を見つけてしまって(笑)。矢も楯もたまらず、どんどん転職へと気持ちが揺らいでいったんです。過去の経験上、「“やってしまった”後悔はすぐ忘れるけど、“やらなかった”後悔は一生引きずる」 とわかっていたのと、「挑戦する前にどうこう考えたり、悩むのはおこがましい!」と、とにかくチャレンジしました。
実は学生のときもサントリーを志望していたという竹内さん。そのときは縁がなかったそうですが、「やっぱりサントリー」という沸き上がる気持ちを押さえられなかったようです。自分のなかにあった“サントリー愛”を信じて受けた結果は合格。
2020年に入社、2021年に新設されたビール事業部イノベーション部(現・未来開発部)へ配属されました。メンバーは多種多彩で、竹内さんのような転職組もいれば、経理や営業、物流部門の出身者など幅広い人材が揃いました。
そして2022年、ブランドマネージャーとして託されたのが「サントリー生ビール」でした。
竹内:言われたときは、「お~、これは一大プロジェクトをなりそうだ。不安もあるけど、ワクワクするな」という感じでしたね。
その時点で決定していたのは「サントリーを代表する生ビールであること、スタンダードで、ど真ん中のビールを作りましょう」というところまで。そこから、中味設計からパッケージデザイン、コミュニケーション、どんな戦略で売り出していくのか、ということを考えることが、私の担う仕事でした。
転職組が“スタンダードビールをつくる”ことに戸惑いはなかったのでしょうか。
竹内:いまでこそ「華やかさと爽やかさ」の違いが分かるようになりましたが、最初は味の表現ひとつでも「?」が飛び交っていましたね。
たとえば、お菓子の場合ですと、「チョコレート」という同一カテゴリー内でも、味も違えば、形状やサイズ、包装、価格にも変化がつけられるので、既存商品や競合とのポジションの違いが明確に打ち出せます。
でも、ビールの場合は形状もサイズも差別化が難しく、味わいも似ている。そのなかで違いを明確にするには、あらゆる思考の解像度を上げ、それを言語化することがもっとも重要です。お菓子の世界で言うなれば、ベーシックな「板チョコ」だけで、いくつも異なるブランドを成立させなければならないようなイメージでしょうか。
ですから、最初はお菓子業界との解像度の違いに面食らい、カルチャーショックを受け、慣れるのに時間がかかりました。
ただし、どこかで自分本来の感覚も忘れていませんでした。転職組だからといってサントリーのやり方を踏襲するだけではなく、これまでのキャリアから自分のカラーを出していくことも重要だと考えました。大切なのは「会社に適応していく」ことと「異色でい続ける」ことのバランスだと竹内さん。
また、どこかで「つくり手が期待するほどの違いはお客様には伝わらないこと」を理解していても、のめり込んで視野が狭くなることも起こりえると考えていました。
竹内:これまでのビール愛飲層はもちろん、若い世代にも認めてもらいたい。他社の模倣にもならず、新しい価値もつくる……「ど真ん中」って本当に難しい課題でした。結果的に「今とるべき最適解はこれ」という道筋を見つけることはできました。
だからといってその道を見出すのは簡単ではなく、最短でもない。泥臭く、ひとつずつ当たって砕けろ方式で見つけるしかありません。年齢層、職種、生活環境など、とにかくターゲットを限定せずにさまざまなビール好きの方の話を聞くことで、幅広く共感いただける製品になっていきました。
2023年4月4日、発売日を迎えた「サントリー生ビール」。
そして生まれた「サントリー生ビール」は、「衝撃」でもなければ、「忘れられない味」ではない——飲むほどにじわじわと好きになり、いつしか「自分のビール」になるタイプです。「とりあえず“サン生”」という声も聞かれるようになり、発売から1年半、サン生もスタンダードビールの一員になりつつあります。
竹内さん:今回、ブランドマネージャーとして、「サントリー生ビール」を世に送り出しましたが、自分ひとりでできたことは、何ひとつとしてありません。
それぞれの分野でそれぞれのプロフェッショナルが納得して、協力し合って、初めて前に進むもの。「お願いする、お願いされる」という関係のうちはまだまだで、徐々に「オレが、オレが」になっていくとようやくチームとしてよくなっていくと思っています。
お互いのフィールドで精一杯戦いながら、上手にパスを出し合って、最後にゴールを決める。そこが部活っぽいと感じていて、関係者とやり取りしている時間や一緒にブランドを作り上げていく過程で、何度もこの感覚になりましたね。この感覚が一番楽しくて、大好きです。
サン生のプロジェクトメンバーと社内イベントで。一番右が竹内さん。
部署もイノベーション事業部から、ビール本部プレミアム戦略部に異動となり、これからはサン生を育てていくことに注力していくという竹内さん。スタンダードビールとして長く愛される価値を創出していくためにも、5年後、10年後を見据えた戦略を構築していく必要があります。
サントリーで4年を過ごし、新製品を世に送り出しましたが、サントリーが大切にしている価値観「やってみなはれ」をどのようなときに感じるのでしょうか。
竹内さん:「判断基準は、理論よりも情熱」な点です。もちろん、理論に裏打ちされた戦略であるべきですが、本当に人を動かす力が大きいのは、個人が持つ信念や情熱だと感じており、そうした点でサントリーには熱い人が多いと感じています。
情熱がベースだと、それに賛同してもらう過程にこそ苦労はあるものの、その後はものすごい勢いでプロジェクトが進みます。 人も動きも杓子定規じゃないところ。それが「サントリー」「サントリアン」の魅力だと思います。
JR新橋駅から徒歩1分のところにある「SL酒場」は、「サントリー生ビール」を飲食店展開するにあたってさまざまなアドバイスをいただき、ご協力をいただいたお店。今春の展開開始以降も、いち早く手を挙げ、サン生の提供をスタートしています。
店長の水戸さんは「営業さんの熱量がとにかく高く、随所で『絶対にサン生を成功させる!』という意気込みを感じました」と振り返ります。「だからこそ、どの店よりもおいしいサン生を飲んでもらおうと、生ビールの飲用時品質には徹底的にこだわっています。」
お客様からは、“サン生がおいしい”という評価とともに、独自のフォルムを持つ“サン生ジョッキ”への評価も非常に高く、「珍しい!」「可愛い!」と大人気。「樽をしっかり冷やす、ジョッキはていねいに手洗いする、泡の比率7:3を守るといった、当たり前のことに手を抜かず、最高品質の生ビールが提供できるように、今後も「おいしいサン生の提供」徹底しています。」
サントリー株式会社 ビール本部プレミアム戦略部
竹内彩恵子┃たけうちさえこ
1985年生まれ、長野県出身。明治大学経営学部卒業。2009年大手菓子メーカーに入社し、マーケティング部でさまざまな商品のブランド戦略に携わる。10年間の同社勤務を経て、2020年にサントリー株式会社に入社。2021年4月、ビール事業部内に新設されたイノベーション部から誕生した「サントリー生ビール」のブランディングを担当。現在はビール本部プレミアム戦略部で、引き続き同製品を担当する。