缶ビールが生ビールに!「nomiigo」を開発した経理出身者の発想力
缶ビールが生ビールに!「nomiigo」を開発した経理出身者の発想力

ALCOHOL

缶ビールが生ビールに!「nomiigo」を開発した経理出身者の発想力

24.07.03

様々なフィールドで活躍するサントリーの社員=サントリアンにスポットを当て、「挑戦」をテーマにインタビューしていくシリーズ企画。第8回目は「nomiigo(ノミーゴ)」を開発し、新たなビジネス形態を創出したサントリー株式会社 未来開発部の伊藤優樹さんにお話を伺います。

2021年4月、ビール事業部内に新設されたイノベーション部からは、「ビアボール」(2022年11月) 、「サントリー生ビール」通称"サン生"(2023年4月)という魅力あふれる商品が登場しています。そして、今回新たに登場したのが「nomiigo(ノミーゴ)」です。

常温の缶から"飲食店の生ビール"が提供できる飲食店用のビールサーバーで、2023年10月からサービスがスタートしました。

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サントリーでも前例が少ない
経理からマーケティングへの道のり

高校、大学と夢中になっていたのはアメリカンフットボール。文武両道というよりは「武」に重きを置いていたと話す伊藤さんですが、それでも「将来のために」と在学中に簿記の資格を取得。今でこそ、「nomiigo」のプロジェクトリーダーを任されていますが、2008年の入社から9年間は、経理部で働いていました。

伊藤さん:経理は期間によって業務量に強弱があり、いわゆる決算の時期がもっとも忙しく、体力勝負のところもあるんです。アメフトで培った体力が活かされました。

同期には、公認会計士を目指していた人や大学で経済を専攻していた人など、最初からスキルの高い人も多くて、簿記は取得したものの私の知識だけでは勝負しづらい。そこでみんなとは違う分野を極めていこうと、経理のなかでもより専門性の高い「税務」を希望しました。

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簡単に言ってしまえば、税務は希望者が少ないからこそライバルも少ないわけで(笑)。専門的なスキルということもあり、9年経理に所属しました。10年間で3部署を経験することが推奨されているサントリーでもめずらしいことだと思います。

ただ、入社の翌年の2009年にはホールディングス化、その後はサントリー食品インターナショナルの東証1部上場や「ビーム」の買収など、サントリーとしてエポックメイキングな出来事がたくさん起こりました。

これらに経理という立場で一貫して関わることができたのは、9年間の経験があってこそですし、私の誇りであり、資産になっています。

ビジネスパーソンとして「ライバルが少ないポジションで」という戦略は、学生時代にスポーツを通して己の長所を磨き続けたという伊藤さんならではの考え。9年間で磨いた経理、税務のスキルは、その後、2017年にビール事業部の企画部に配属されることで転機を迎えます。

伊藤さん:企画部への異動で、入社当時の「モノづくりに関わりたい」という希望に一歩近づきました。経理部から企画部への異動は劇的な変化のように思えますが、中期計画や予算設計など"お金"が密接に関わる仕事なので、経理出身者も多く活躍しています。

企画部では上司に勧められて夜間に大学院に通いながらMBAを取得。同時にマーケティングも学びました。そんなキャリアを経て、2021年に「イノベーション部へ異動してみないか」と声をかけてもらいました。経理出身者のマーケティング部署への異動は前例が多くないので、周りからも驚かれましたね。

suntorian_08_D.JPGともにMBAを取得したメンバー

経理出身者が開発した
前例のない新商品「nomiigo」

サントリー株式会社イノベーション部(現・未来開発部)は、既存の業界ルールや慣習にとらわれずビールに関する商品やサービス開発に当たるチームとして新設された部署。「ビアボール」や、「サントリー生ビール」(サン生)を世に送り出した、いわばビール事業の開拓者で、業界でのゲームチェンジがミッションです。

伊藤さん:イノベーション部は、今までにない新しいことに失敗を恐れずに「やってみなはれ」の精神でチャレンジしていくことが求められていました。

ビールを取り巻く環境は厳しく、市場も2004年から少しずつ縮小しています。ここから脱却し、同時にお客様に新しいご提案をしなければなりませんが、これまでの発想では新商品を開発するというアプローチになりがちです。

そこで、イノベーション部ではそこから視野を広げて、"ビジネスモデルまでを創出すること"がミッションでした。そのためには常識にとらわれないことが重要です。

suntorian_08_E.JPGときには同士、ときにはライバルのイノベーション部のメンバー

新設されたイノベーション部(現・未来開発部)に配属されたメンバーは多種多彩。伊藤さんのように経理畑の人材もいれば、営業や物流部門の出身者、転職者から新入社員まで、さまざまな視点や経験が求められていた、当時の緊迫した状況が見えてきます。

伊藤さん:イノベーション部には私を含めて3人のリーダーがいて、それぞれが自身のプロジェクトに応じたお客様に対して新しい価値をお届けすることが使命です。そのニーズにお応えして誕生したのが「ビアボール」であり、「サントリー生ビール」。すでに日の目を浴びた2人に対して、アンカーを託された私の緊張感は大きかったですね(笑)。

私のミッションは「飲食店様向けビジネスの改革」でした。経理時代から数字と向き合うだけでなく、「『足』を使うこと」をモットーにしていたので、まずは"現場"である飲食店様に足を運びました。営業担当者とともに「現場・現物・現実」を大切にして、週2~3回は飲食店様をまわりました。

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飲食店にある現行の樽生サーバー(ビールサーバー)の多くは、数日間のうちに飲みきってから、また新しい樽生が補充されることで、いつでも新鮮なビールを飲むことができます。しかし、当時はコロナ禍の真っ只中----。

伊藤さん:お店に通ううちに生ビールの品質維持の難しさを実感しました。期限以内に飲みきる、ていねいな洗浄などのポイントがありますが、コロナ禍では、図らずもその通り提供できていない状況を目の当たりにしたんです。

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伊藤さん:サントリーのビール事業がここまで成長したのは、「飲食店様で飲むビール」と「家庭で飲む缶ビール」の美味しさの連鎖だと思っています。飲食店様で美味しい生ビールを味わったお客様が、それを自宅でも体験しようと小売店で買ってくださる。飲食店様での高品質なビールの提供は、その後家庭でビールを飲んでくださる大きなきっかけになるのです。

ビールがたくさん飲まれるお店が少しずつ減っている状況のなか、コロナ禍をきっかけにさらにそのようなお店が増えると予想しました。これには、お酒中心から食事を中心としたお店が増え始めていることや、お客様にビール以外のお酒の選択肢が増えたことも影響していると考えられます。

となれば、ビールが飲まれる量や、ビールサーバーを置ける店舗も減っていきます。生ビールを提供したいのに「樽生サーバーが置けない」「使いきれない」というお店の困りごとは "新しいニーズ"になりうる。

また、コロナ禍を経て外食の機会をより重要視される方が増えたことで、せっかく外食するなら......とお酒にも高い品質を求める方が増えました。これらを総合して、「コンパクトな生ビールサーバー」を考案しました。

新しいものだけじゃない。
「既存」から起こすイノベーション

伊藤さん:折に触れて上司からアドバイスをもらいましたが、そのなかで「すでにあるもの同士の組み合わせも新しいイノベーションだよ」と言われたことが心に残っていました。であれば、「いまある優秀なものを組み合わせて、新しいものを作っていくのは"あり"」だと思ったんです。すでに結果を出しているものや技術が活用できれば、スピードアップもできますし、投資も抑えられます。

そこで"缶ビール"という商品のクオリティの高さに目を付けたんです。品質も高く、運びやすく、保管もしやすい。これを使わない手はないと思いました。樽生サーバーは常温の樽からコックをひねるだけで冷やされたビールが出てきます。こちらも非常に優れた構造です。

こうして、"すでにあるの"缶ビールと樽生サーバーを組み合わせることで、これまでになかったイノベーションが完成しました。

「nomiigo」の使い方はとても簡単。まずは350ml缶ビールをセット。注ぐときに冷やされるので缶を冷蔵保存する必要なし。

缶をセットしたらワンプッシュでビールが注がれる。泡もボタンひとつで出てくる。

提供スキルは不要。誰でも常温の缶ビールから高品質な生ビールを提供できる。

こうして誕生した新商品は、「飲みごろ」と「飲みにGO」の意味を込めて「nomiigo」と命名されました。樽生サーバー導入が難しい飲食店でも、美味しい生ビールが提供できるという「改革」を起こすに至ったのです。

伊藤さん:もちろん上司や部署の仲間からいくつものアドバイスやアイデアをもらいましたし、イノベーション部だからできたことだと思っています。

今後は「nomiigo」をさらに発展させていきたいですね。「ザ・プレミアム・モルツ」だけでなく、「サントリー生ビール」など多彩なビールを提供できる可能性もある。それがお客様の来店のきっかけになれば嬉しいですよね。

2024年4月から「未来開発部」は、ビールに限らずさまざまな酒類を横断して、新しいお酒の魅力を創造する部署になりました。これからも「やってみなはれ」の精神で、チャレンジしていくつもりです。

nomiigoで新たな需要を獲得!
「bb.q オリーブチキンカフェ」

二子玉川にある「bb.q オリーブチキンカフェ」は「nomiigo」の魅力にいち早く賛同し導入を決めた店舗のひとつ。ゼネラルマネージャーの恩田光さんは、実際に使用してみて「スペースの有効活用、誰もが使える簡便さ、洗浄のしやすさなど、利点はいくつもあります。なかでも食品ロスが軽減できること、工事などをせずに設置できることは、飲食店にとって非常に優れたポイント」だと言います。

二子玉川という立地から主婦や学生の方が多く訪れる店舗ですが、「ザ・プレミアム・モルツ」のポスターを貼ったところ、仕事帰りの方の来店も増えたそうです。

伊藤さんは「ファストフード店でも生ビールを飲みたい、食事がメインでも一杯だけでも、というニーズは増えています。お客様が一杯飲みながら明るい表情をされている様子を見ると、改めて生ビールの楽しさをお伝えできたのではと嬉しくなります」と話します。

恩田さんは「これから導入店舗を増やしていきたいと考えています。生ビールをお供に食事を楽しんでいただきたいですね」と今後にも期待しています。

サントリー株式会社 未来開発部

伊藤優樹┃いとう・ゆうき

1985年生まれ、埼玉県出身。中央大学を卒業後、2008年にサントリー株式会社に入社。経理部に9年間の在籍を経て、2017年に企画部に配属。2021年からはビール事業部内に新設されたマーケティング本部イノベーション部に異動になり、「nomiigo」の開発を担当。現在は未来開発部として、引き続き「nomiigo」のプロジェクトマネージャーを務める。

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