ALCOHOL
25.03.03
ここ数年で大きなブームとなっている「JJ」(ジャスミン焼酎のジャスミン茶割)。そのもととなる「ジャスミン焼酎〈茉莉花(まつりか)〉」(以下、「茉莉花」)は、2004年から発売されているロングセラー商品です。
なぜ今、発売から20年が経過した商品が若者を中心に人気を呼び、愛飲されるようになったのか――サントリー株式会社 スピリッツ本部の永尾真紀さんにお話を伺いました。
2024年に颯爽と登場した「茉莉花〈ジャスミン茶割・JJ〉缶」(以下、「JJ缶」)。市場での反響を受け、今年2月12日より新容量480mlのロング缶が登場しました。その商品開発を手がけたのが、サントリー株式会社 スピリッツ本部の永尾真紀さんです。
サントリー株式会社 スピリッツ本部の永尾真紀さん。
永尾さん:2014年の入社以降、様々な商品のブランドマーケティングに携わってきました。マーケティングの業務は、市場のリサーチから商品開発、パッケージデザイン、発売後のマーケティング戦略にいたるまで、一貫して担当します。
例えるなら、ブランドのお母さんのような仕事で、「こういうブランドに育ってほしい」という期待を胸に、商品のブランディングや課題解決などのお世話をする役割です。
初めてゼロから商品開発を担当したのは、入社3年目のときにコーヒーと紅茶のリキュールでした。その後、「こだわり酒場のレモンサワーの素」の開発を担当しました。
いろんな飲食店様のレモンサワーを飲み歩きながら、「どんなレモンサワーが愛されているのか」「お客様はどんな味わいを求めているのか」をリサーチした日々は、大変ながらも充実した、いい思い出です。
「こだわり酒場のレモンサワー」開発時代には中味開発チームとともにレモンサワーを飲み歩き、市場調査を行なった。
商品が発売されるとチームでの打ち上げも、取扱店で「こだわり酒場のレモンサワー」。
単に机上や会議室でのディスカッションで練り上げた商品ではなく、お客様の生の声や現場の熱をきちんと拾い上げて商品に落とし込んでいく――ある意味で徹底した「現場主義」のような姿勢は、サントリーのマーケティングの強さの秘訣と言えるかもしれませんね。
産休・育休を経て、永尾さんが次に担当したのが「茉莉花」。現在の「JJ」ブームに連なる小さな動きは、2019年ごろから起こっていたと振り返ります。
永尾さん:「茉莉花」は、発売から20年を迎えたロングセラー商品ですが、私が着任する前はブランド担当者もおらず、特に大きなマーケティングを仕掛けたわけではありませんでした。ところが、2019年ごろから急に、沖縄や大阪を中心として販売実績が大きく伸びていたんです。
現在、「茉莉花」ブランドは500ml(瓶)、1.8L(紙パック)のジャスミン焼酎「茉莉花」、335ml、480mlの「JJ缶」をラインナップ。
永尾さん:リサーチを重ねるなかで、ジャスミン焼酎である「茉莉花」のジャスミン茶割りが、お客様たちの間で「JJ」という愛称で親しまれ、口コミでじわじわと広がっていることがわかりました。
沖縄では、さんぴん茶(ジャスミン茶)は馴染みのあるものですし、ボトルキープができる業態の飲み屋さんなどで、若い女性を中心に誕生した飲み方が飲食店にも広がっていました。また、大阪では粉物や串カツなどの濃いソース味の食べ物と合う、すっきりとした味わいの「茉莉花」が受け入れられ、少しずつ流行っていったようです。
呼び方のキャッチーさはもちろんですが、飲みやすい、さわやかな味わいも「JJ」の特徴です。割り方によってアルコール度数も調節でき、無炭酸で甘くないので、食事の邪魔にもならず、会話を楽しむのにもピッタリです。軽やかな味わいで、自分らしく楽しめるお酒であるというところも、「若者の酒離れ」と言われている時代に「JJ」が愛される理由なのかもしれません。
アルコール飲料のニーズが変化しているなか、「JJ」は言わばお客様がつくり上げ、育ててくださった新しいお酒の飲用スタイル。そういった意味でも大切に育てていきたいです。
ブランドマネージャーの仕事は、コンセプトの設計、市場調査、中身の開発、パッケージデザイン、プロモーションなど、多岐にわたる業務をディレクションすること。
「JJ」ブームを受け、ジャスミン割りをそのまま手軽な缶で楽しめる「JJ缶」の開発がスタート。市場の声をそのまま商品に反映できるよう、若手社員を中心に開発チームが組まれました。
永尾さん:「JJ缶」は、もともとある「茉莉花」をジャスミン茶で割るだけだと思われるかもしれませんが、商品化には1年以上かかっています。
「JJ缶」のチームは、味わいや風味など中味の開発も、パッケージの新デザインも、宣伝担当も、それぞれ20代中盤の担当者が手がけています。
これまでマーケティング担当として10年間、様々なブランドに携わってきましたが、私が培ってきた経験や知見だけではなく、若手メンバーの意見を積極的に取り入れました。キャリアを積んだ上司や先輩の裁量をベースに進めるのではなく、適した人材で商品をつくりあげていくのは、サントリーの社風なのかもしれません。
私自身、入社4年目の若手のときに「こだわり酒場のレモンサワーの素」を担当し、大きな成功体験を与えてもらったという思いが強くあったので、今回はなんとしても3人の後輩たちに成功体験を感じてほしいというのも、モチベーションのひとつになっていたのかもしれません。
現在、プライベートでは子育てに大忙しですが、子どもが大きくなって、いつか「JJ」で乾杯できる日を迎えられるよう、我が子も「茉莉花」も「JJ缶」も、それぞれすくすく育ってほしいなと思います。
ブランドマネージャーとして、担当ブランドの業績を日々確認。数字がいいと我が子が育っていくようでうれしいそう。
「大衆酒場 ニューコーナン 品川店」の佐々木店長。
佐々木さん:半年ほど前から、当店でもJJを取り扱っています。メニュー表には「JJ(ジャスミン焼酎×ジャスミン茶)」以外にも、「JO(ジャスミン焼酎×烏龍茶)」「JR(ジャスミン焼酎×緑茶)」など、愛称とともに載せていて、若い女性のお客さまなどは「JJください」と注文される方も多いですね。
永尾さん:私も「JJ」というワードで盛り上がっている様子をリサーチの際によく目にしていて、実際にそう言っていただけているのはうれしいです。
「JJ」だけでなく、「JR」「JO」「JS」など様々なラインナップで提供。
佐々木さん:当店では、若い世代のお客様だけでなく、世代を問わずによく飲まれている印象があります。「JJ」はさっぱりとした飲み口なので、「牛肉スタミナ炒め」などのしっかりした味の料理にもよく合うお酒だと思います。
永尾さん:「JJ」のユニークさは、若い世代が生み出したお酒文化だというところ。20年前に生まれたジャスミン焼酎の新しい飲み方を、若い方々が見つけて育ててくださり、その盛り上がりが上の世代にも広がりを見せつつあります。
このブランドがきっかけで世代間の会話が生まれたり、ちょっとした日々の癒やしとなったり……そんなふうに、世の中が少しだけいい方向に進む一助となれば、担当者としてはうれしい限りですね。
サントリー株式会社
スピリッツ本部 リキュール・スピリッツ1部
永尾真紀┃ながお・まき
1991年生まれ、福岡県出身。早稲田大学法学部を卒業後、2014年にサントリーホールディングス株式会社に入社。リキュール・スピリッツカテゴリーの売上推進・サポート部門の後、マーケティング部門に配属。「こだわり酒場のレモンサワー」「茉莉花」などのブランドマネジメントを担当。