箸やすめコラム
暑い日中に聞こえてくれば涼やかな気分に、
夕暮れに聞こえてくればどこか郷愁を誘う風鈴の音色。
「最近はまたそんな風鈴のファンが増えてきているような気がします」
と教えてくれたのは、毎年7月に神奈川県の川崎大師で開催される
風鈴市の実行委員長を務める森明弘さん。
この風鈴市では、全国各地の様々な風鈴を一堂に集めています。
「ひとくちに風鈴といっても、さまざまなものがあります。
音色はもちろん、それぞれの土地柄を感じられるデザインがあり、
それを知っていただくと、楽しみがぐっと広がるのではないでしょうか」
川崎大師の風鈴市には、約900種類の風鈴が勢ぞろいするといいます。
そんな風鈴市を案内していただきながら、
風鈴を楽しむヒントを伺いました。
そもそも、なぜ軒先に風鈴を飾るようになったのでしょうか?
「お寺のお堂に注目してみてください」
と、森さんの指差した四隅の軒には、何かぶら下がっています。
「これは、風鐸(ふうたく)といいます。
これには、邪を払う意味があるのです。
これが風鈴の元だと言われています。
風鐸もそうですが、年末の除夜の鐘など、古くから
かねの音には魔除けや浄化の力があるとされていて、
日本人にとっては馴染み深く、大切な音のひとつ。
ですから風鈴の音色にも、そういった意味を
日本人は見出してきたのかもしれません」
風鈴は、風物詩として味わうのはもちろん、
厄除けの願いを込めて飾るのも、
大切な風鈴の味わいかたのひとつなのですね。
そんな私たち日本人の暮らしに古くから馴染んできた風鈴ですが、
その素材は、というとなにを連想しますか?
ガラスや金属、陶器……。
「珍しいものですと、石や備長炭でつくったものもあるんですよ。
そういった素材の違いによって、音色もかなり異なります。
金属の風鈴は、長い音の余韻が印象的で、
炭や竹などでつくられた風鈴は軽やかにカランコロンと鳴ります。
ガラスや陶器の場合は、音だけでなく、
色や形もさまざまに美しく、デザイン性も楽しめます」
そのようにたくさんの種類の風鈴の中から、
自分の好みのものを見つける道はひとつ。
まずはいろいろな風鈴を見て、音を味わってみることだといいます。
「同じ素材やデザインでも、音はひとつひとつ微妙に違いますから、
箱から出して、音を確かめてから買うのがおすすめですよ」
さて、お気に入りの風鈴を手に入れたら、次はどこに飾るか。
都市部の住宅街では軒先に風鈴をぶら下げにくく、
室内にぶら下げている、という人も少なくないようです。
「たとえば、切子ガラスや蒔絵など、
高価な伝統工芸の風鈴を買ったのならば、
風鈴台も用意して、床の間や棚の上に飾ってはどうでしょう。
インテリアとしてその美しさを楽しむことができます。
また、玄関先もいいですね。
人が出入りするときに空気が動いて、
チリンと風鈴が鳴るでしょう。
そんなふうに生活の中にさりげなくある風鈴の音色は
やっぱりいいですよね」
もともとは、厄払いの意味を持つ風鈴。
夏の風物詩としてはもちろん、
四季を通じて暮らしの中で楽しむのも、よいのかもしれません。
風鈴市を歩いていると、各地から届いた風鈴たちの
その素材やデザインの多様さに驚かされます。
「風鈴は各地の名産品や伝統工芸品をつくる工房でつくられてきました。
自分の出身地や思い入れのある土地でつくられた風鈴を飾る
というのも、風鈴の楽しみ方のひとつだと思います」
と、森さん。自分の日々の暮らしの中でどんなふうに楽しもうか、
イメージを膨らませながら、お気に入りの風鈴を見つけましょう。
※この記事は2018年8月に掲載されたものを編集して再掲しております。プロフィールは初掲載当時のものです。