箸やすめコラム
シャンカール・ノグチSHANKAR NOGUCHI
東京生まれ。アメリカ留学後、インド・パンジャブ地方出身の祖父が立ち上げたインドアメリカン貿易商会の3代目として、インド国内の市場を巡りつつインド食品の輸入やオリジナル商品の開発と販売を手がける。また、スパイス料理を極める集団「東京スパイス番長」や「カレー将軍」のメンバーとして、イベントやワークショップでカレーをつくったり、レシピ開発に携わったり、幅広い活動を展開。著書に『増補改訂 ハーブ&スパイス辞典』『インドカレー名店のこだわりレシピ』(ともに誠文堂新光社)『スパイス生活』(地球丸)などがある。
年が明け、寒さはいっそう厳しくなりました。
コートや暖房の他に身体を温めてくれるものが必要です。
そこで今回注目するのは、スパイス。
温活に効果的なスパイスを暮らしに取り入れるコツを紹介します。
寒い日にはスパイシーなものを食べたくなりませんか?
食べれば身体が中からポカポカに!
このスパイスの力を上手に日々に取り入れて、身体を中から温め、冷えに強くなりたい!
そこで、相談したのはスパイスの達人、シャンカール・ノグチさん。
スパイスをテーマに料理を極めるユニット「東京スパイス番長」のメンバーの1人であるノグチさんは、本や雑誌での執筆やレシピ開発のほか、イベントを主宰したり、カレーなどのスパイス料理の魅力を発信しています。
「スパイスの役割は、大きく分けると、香りをつける、色をつける、辛味をつける、消臭防腐の4つ。
そして、『身体を温める』という役割も期待できます。
たとえば、クミンシードやシナモン、クローブなど、胃腸に良いとされているスパイスが、手軽な温活スパイスとしておすすめですよ」
それではさっそく、「飲む」「食べる」「飾る」スパイス温活を紹介します。
1. 毎日の習慣にしたい!飲み物でスパイス温活
まずは飲み物でスパイスを取り入れるコツは?と尋ねたら、ノグチさんがつくってくれたのが、マサラチャイ。
インド出身のおじいさんを持つノグチさんは、物心ついた頃から毎朝このマサラチャイを飲んでいるそう。
インド料理店ではおなじみの飲み物ですが、家でも簡単につくれます。
「ポイントは、CTC加工された細かい茶葉を使うこと。
CTCとはcrush=押しつぶす、tear=引きちぎる、curl=丸めるという加工をした茶葉のことで、短時間でしっかりとした味わいの紅茶を淹れることができます。
この茶葉とスパイスを煮出して、砂糖と牛乳を加えて沸騰させるだけ。
スパイスは、シナモン、カルダモン、クローブに、ジンジャーとブラックペッパーも加えます。
これらのスパイスの香りには気分を落ち着かせる効果もあって、朝これを飲むことで、中から温めて身体を目覚めさせながら、心もリラックスするので、良い1日のスタートを切れている気がします」
マサラチャイの他に、ホットレモンにクローブやカルダモンを加えるのもおすすめだそう。
湯気と一緒に立ち上るスパイスの香りを嗅ぎ、スパイス入りの温かいドリンクを身体の中に届けることで、寒い朝の目覚めは、身体も心も穏やかでポカポカになるのです。
2. 新しいおいしさに出会える!おなじみメニューにプラス
そんなありがた~いスパイスをもっと積極的に摂取しよう!
というならば、やっぱりスパイス料理。
そこでノグチさんに、日常的にスパイスを料理に取り入れる方法を教えてもらいました。
「おすすめは、クミンシードです。
クミンシードは胃腸を温め、消化吸収を助け、循環をスムーズにするとされている、温活スパイス。
インド人もクミンシードには『warm』のイメージがあって、身体を温める、そして味に豊かさを加えるということのようです」
なるほど、それはぜひ取り入れたいスパイスです。
では、どうやって使えばよいでしょう?
「たとえばいつものカレーをつくるときに、クミンシードをプラス。
初めに、オイルにクミンシードを入れて火にかけます。
パチパチと音を立てますから、しばらくそのままに。
クミンシードがいい焦げ色になったら、玉ねぎを加えます。
クミンシードの香りのオイルを絡めながら、ベースの具である玉ねぎやトマト、ニンニクやショウガを炒めます」
クミンシードの香りを移したオイルは、キャベツやきのこなどを炒める時にも活用すると、いつもと違った風味を愉しめ、おいしくスパイスを摂取できます。
また、から炒りしたクミンシードをいつもの料理にふりかけることもできるそう。
「炒ったクミンシードをスパイスクラッシャーやすり鉢などで潰して、肉を焼いた時に、仕上げに振りかけてもおいしいですし、他にもたとえば……肉じゃがに振りかけると、いつもと違った風味でおいしく愉しめますよ。
しかも根菜類は体を温めると言われていますから、スパイスの力と相まって温活におすすめです」
スパイスは、伝統の味に新しいおいしさをプラスしてくれるものとして、各国料理のシェフたちからも注目されていて、ノグチさんはフレンチレストランなどでスパイスの講師を務めることもあるそう。
身体にうれしい、食べておいしいスパイス。
一度料理に使ってみれば、きっと「あれにも、これにも」とイメージが膨らみます。
3. スパイスの香りを愉しむインテリア
また、冬におすすめなスパイスの愉しみ方が、ポマンダー。
オレンジやレモンなどの柑橘にクローブを刺したポマンダーは、ヨーロッパでは厄除けとして冬に飾るそう。
クローブの甘くスパイシーな香りとオレンジの香りが合わさって、部屋に心地よく広がります。
「虫除け効果もあるので、キッチンなどに飾るのもおすすめです。
強い抗菌効果があるクローブのおかげで、オレンジが腐らずに乾燥するんです。
このクローブも、摂取すれば胃腸を温め、消化器系の不調に効果があると言われている温活スパイスで、その香りには身体と心をリラックスさせる効果も期待できます」
ノグチさんのルーツであるインドでも、スパイスはお香にも使われていて、気分転換や気分を落ち着かせたいときなどに使われるそう。
「ガラムマサラパウダーを焚いていたシェフもいました。
ガラムマサラはシェフが調合するミックススパイスなので、風味だけでなく、香りも好きなスパイスを混ぜていたのでしょう。
スパイスの香りは、気分や身体をリラックスさせるだけでなく、野性的で、生命力を呼び覚ますようにも思います。
いい香りだなあと感じながら、身体の中で元気が目覚める。
そんなスパイスの香りは、温活にもきっと役立つと思います」
スパイスにはまだまだたくさんのおいしい愉しみ方があります。
組み合わせればその風味は無限大に広がります。
そして、そのそれぞれに身体にうれしい力があります。
「僕は、身体の調子の悪い時は、ブラックペッパーとレッドチリをいつもより効かせたチキンカレーを食べるようにしています。
スパイスを食べると身体が温まって、しかも、そのポカポカした感じが身体の中で持続するような気がしますね。
スパイスは医食同源な食材です。
適正な分量を知り、うまく利用すれば、愉しく、おいしく、その力を取り入れることができます」
と、ノグチさん。スパイスにはまった人たちからは、風邪をひかなくなったとか、体調よくなったとか、そんな声も聞こえるとか。
今日登場したスパイスを参考に、好みのスパイスを見つけて、スパイスライフを始めてみてください。