Liqueur & Cocktail

カクテルレシピ

ミスティア・ロワイヤル

ミスティア 30ml
シャンパン 適量
軽くステア

響12年&プルシア

響12年 40ml
プルシア 20ml
軽くステア(ロック)

ミスティア・ジェラート

ミスティア 50ml
ヨーグリート 10ml
ハーゲンダッツ
バニラ
30ml
クラッシュドアイス 1cup
ブレンダー(ミキサー)
にかける

16ビートのスタイル

シズル感のあるフルーテイーなリキュールを飲んだ。「ミスティア」。マスカットから生まれたリキュールで、しっかりとした甘みがあるのに重くはなく、みずみずしい。

プラムが華やかに香る「プルシア」を生んだフランスのルイ・ロワイエ社の新製品だと知る。どちらもアルコール度数15%。スティルワインよりほんのちょっと高い程度だからストレートで無理なく味わえる。

口中でマスカットの爽やかな酸味と甘みがふんわりと広がっていくのを満喫しながら、21世紀の酒だ、と感じ入る。伝統的な重厚な香味のリキュールとは異なる軽快さがある。こうしたみずみずしい味わいが増えていけば、また新たな飲酒スタイルが生まれそうな気がする。

16ビートが街に響きはじめたとき、飲酒スタイルが大きく変わったように思う。変化の兆しは、地球に8ビートが刻み込まれはじめた頃からあった。

20世紀、日本人はずっとアメリカの音楽シーンを享受した。酒、とくにカクテルもアメリカの影響が強い。

1920年代くらいまでは2ビートのデキシーランドジャズ。30~40年代は4ビートのスイングジャズ。そして'50sのセンセーション、8ビート、Rock'n'Roll。60年代に入りベトナム戦争が泥沼化していくなかでフォークロックが反戦とリンクし、さらにはハードロック、グラムロックとさまざまなシーンが生まれていくが、ロックが酒のシーンに少なからず影響を与えた。

じっくりと味わうべき酒は強烈なビートには合わないんじゃないか、と誰もが感じはじめた。一方の刺激が強すぎれば、もう一方は穏やかであるほうが陶酔のバランスが保てる。

70年代に入るとウイスキーを代表格とするブラウン・スピリッツ離れが起こる。変わってホワイト・レボリューション(白色革命)と呼ばれるウオツカ、ジン、ラムといったホワイト・スピリッツが人気となる。それらにジュースやリキュールをミックスしたり、ソーダやトニックウォーターで割る人が増えていく。ローリング・ストーンズがメキシコ公演でカクテル「テキーラ・サンライズ」を気に入ったなんて話が世界のバーを駆け巡る。

そこに16ビートが弾ける。テンポはゆっくりでも刻みは細かいディスコ・サウンド。いまはクラブシーンに爽快なウイスキー・ハイボールが似合う。でも、当時ブラウン・スピリッツはディスコに入り込めなかった。

日本の70年代はウイスキーが大ブームだったが、飲み方として定着したのは水割だった。そして日本にも白色革命。焼酎サワーが飲まれはじめた。「チチ」といったトロピカル・カクテルが紹介されるようにもなる。70年代後半のディスコの定番カクテルは、ウオツカとグレープフルーツジュースをミックスした「ソルティ・ドッグ」だった。つまりソフト化、ライト化とともに多様化したのだ。

16ビートが、ハードリカーをじっくり味わう深い陶酔から、さらっと軽快な酔いの世界を表出させた。古いフレームがはずされた。

2040年、64ビート

「ミスティア」は晴天の日のブランチに飲みたい。野菜サンドイッチを頬張りながら、風に吹かれてみたい。

そんな感想を述べると、バーテンダーは「ミスティア」をシャンパンで満たし、「キール・ロワイヤル風に、ミスティア・ロワイヤルをどうぞ」とすすめた。

シャンパンと馴染んだ清々しい香気が立ちのぼった。「若返りそうな気がする」と言うとバーテンダーは笑った。

つづいて響12年に「プルシア」をミックスしたオン・ザ・ロックを飲む。響12年には梅酒樽熟成モルト原酒がブレンドされていて、プラムのリキュールと出会うと梅が香る和の感覚に染まる。最初はウイスキーの香味が濃いが、氷が溶けるとともにプラムの味わいが強くなる。時間経過による変化が面白い。

「何を考えていらっしゃいます」

バーテンダーが聞いてきた。「ミスティア」のブランチに流す曲を考えていたところだった。60年代後半から70年代にかけての曲を想い起こしていた。

「いまボブ・ディランだと決めても、その時になったらローリング・ストーンズかもしれませんよ。案外、レゲエの気分かも」

そうバーテンダーに言われ、また笑われた。

「このままいくと、音楽も酒もどうなるんだろう。計算上、2040年には64ビートになっちゃう訳で、そんな馬鹿な。でも、コンピュータならば。ただし時代は巡る。原点回帰もあり得る。蓄音機の手回しに戻るかね。そしたら、酒は」

酔いのまま独り言のようにわたしが発していたら、「お口直しにどうぞ。遊びの一品です」とバーテンダーがささやいた。カウンターの目の前にジェラートがあった。ヨーグルトリキュールとバニラアイスに「ミスティア」が潜んだ氷菓を絶妙のタイミングで出され、音楽のことを忘れ去る。

ビートが変わっても、みずみずしいリキュールが生まれたり、こういうバーテンダーの遊び心があったりすれば、酒の世界は広がりつづける。

イラスト・題字 大崎吉之
撮影 川田雅宏
カクテル 新橋清(サンルーカル・バー/東京・神楽坂)

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