シズル感のあるフルーテイーなリキュールを飲んだ。「ミスティア」。マスカットから生まれたリキュールで、しっかりとした甘みがあるのに重くはなく、みずみずしい。
プラムが華やかに香る「プルシア」を生んだフランスのルイ・ロワイエ社の新製品だと知る。どちらもアルコール度数15%。スティルワインよりほんのちょっと高い程度だからストレートで無理なく味わえる。
口中でマスカットの爽やかな酸味と甘みがふんわりと広がっていくのを満喫しながら、21世紀の酒だ、と感じ入る。伝統的な重厚な香味のリキュールとは異なる軽快さがある。こうしたみずみずしい味わいが増えていけば、また新たな飲酒スタイルが生まれそうな気がする。
16ビートが街に響きはじめたとき、飲酒スタイルが大きく変わったように思う。変化の兆しは、地球に8ビートが刻み込まれはじめた頃からあった。
20世紀、日本人はずっとアメリカの音楽シーンを享受した。酒、とくにカクテルもアメリカの影響が強い。
1920年代くらいまでは2ビートのデキシーランドジャズ。30~40年代は4ビートのスイングジャズ。そして'50sのセンセーション、8ビート、Rock'n'Roll。60年代に入りベトナム戦争が泥沼化していくなかでフォークロックが反戦とリンクし、さらにはハードロック、グラムロックとさまざまなシーンが生まれていくが、ロックが酒のシーンに少なからず影響を与えた。
じっくりと味わうべき酒は強烈なビートには合わないんじゃないか、と誰もが感じはじめた。一方の刺激が強すぎれば、もう一方は穏やかであるほうが陶酔のバランスが保てる。
70年代に入るとウイスキーを代表格とするブラウン・スピリッツ離れが起こる。変わってホワイト・レボリューション(白色革命)と呼ばれるウオツカ、ジン、ラムといったホワイト・スピリッツが人気となる。それらにジュースやリキュールをミックスしたり、ソーダやトニックウォーターで割る人が増えていく。ローリング・ストーンズがメキシコ公演でカクテル「テキーラ・サンライズ」を気に入ったなんて話が世界のバーを駆け巡る。
そこに16ビートが弾ける。テンポはゆっくりでも刻みは細かいディスコ・サウンド。いまはクラブシーンに爽快なウイスキー・ハイボールが似合う。でも、当時ブラウン・スピリッツはディスコに入り込めなかった。
日本の70年代はウイスキーが大ブームだったが、飲み方として定着したのは水割だった。そして日本にも白色革命。焼酎サワーが飲まれはじめた。「チチ」といったトロピカル・カクテルが紹介されるようにもなる。70年代後半のディスコの定番カクテルは、ウオツカとグレープフルーツジュースをミックスした「ソルティ・ドッグ」だった。つまりソフト化、ライト化とともに多様化したのだ。
16ビートが、ハードリカーをじっくり味わう深い陶酔から、さらっと軽快な酔いの世界を表出させた。古いフレームがはずされた。