日本最高峰の創作カクテルコンペティション、「サントリー ザ・カクテルアワード」。アニメ『バーテンダー 神のグラス』第8回「挑戦」(5月22日放送回)は、このアワードに向き合うバーテンダーたちの苦悩と成長の物語でした。普段は公開されることのない最終審査の様子や張り詰めた緊張感などは、まさに本物のカクテルアワードそのもの。“オリジナル”のカクテルレシピの創作に行き詰まるエピソードなどは、実際のバーテンダーさんたちも苦労されているところだそうです。今回は、今年30回目という節目を迎えるその歴史を振り返りながら、変化を遂げつつあるサントリー ザ・カクテルアワードについてご紹介したいと思います。
欧米から持ち込まれた「カクテル」に魅せられて
人々がまだ「カクテル」という言葉にさえ馴染みのなかった昭和のはじめ、サントリーの創業者・鳥井信治郎は、豊かな洋酒文化が日本に根付くことを夢見ていました。同じころ、飲料業界の発展やバーテンダーの育成に力を入れていた多くの人がこの夢のもとに集まり、力を合わせ、日本で初めてのカクテルのコンクールを打ち立てたのでした(1931年)。欧米発のカクテルという飲み物を日本人の生活に浸透させるという目的で始まったこのコンクールでしたが、日本人の器用さや四季を感じる繊細な感性は、そこから独自のカクテル流儀を生み出していきました。回を重ねるごとに技や芸術性、味わいの水準も上がっていき、1959年には「雪国」のような世界でも知られるスタンダードカクテルが誕生。洋酒を愛し、洋酒文化に魅せられた人々の夢は受け継がれ、「サントリー ザ・カクテルアワード」(1994年より)として現在に至っています。
優勝カクテルの変遷、アワードに賭ける思い
先月開催された「東京インターナショナル バーショー」では、「サントリー ザ・カクテルコンペティション」の歴代優勝バーテンダーの皆さまの協力で本格カクテルが振る舞われました。昨年(2023年)のアワードに輝いた「梅雅(うめみやび)」の提供もあり、日本古来の文化や伝統を取り入れた一杯は会場の注目を集めました。一昨年のアワードは「明け六つ(あけむつ)」、その前年は「瑞花(ずいか)」と、いずれも和を意識したネーミングの繊細で優美なカクテルが優勝に輝いています。
色とりどりのカクテルは目にも楽しく、見ているだけで華やかな気持ちになりますね(各優勝カクテルの詳しい情報はこちらから)。しかしその華やかさとは対照的に、アワード最終審査の舞台(サントリーホール)でスポットライトを浴びるまでには、バーテンダーさんたちの地道な努力があるのです。昨年見事アワードに輝いた「梅雅」を創作した中野賢二さんは過去5回のファイナル出場を経て、6回目に悲願の優勝を果たしたそう。一つのカクテルにさまざまなドラマがあり、またそれをつくるバーテンダーの人生が重ねられています。
記念すべき30回目を迎える、今年のザ・カクテルアワードは……
審査対象のカクテルには、味・香り・見た目の完成度に加え、サントリーが創業以来大切にしている「やってみなはれ」を体現する独創性やチャレンジ精神などもポイントに。また、カクテルを提供するまでの洗練されたパフォーマンスや、「飲みたい」と思わせる話術、使われているお酒に対する深い知識など、バーテンダーの「ホスピタリティ」を見極める視点も近年持ち込まれるようになりました。
そして今年、審査項目として新たに加わったのが「フレキシビリティ」。目の前の“お客さま”の特性を見極め、その時・その気分に合わせた一杯をつくる柔軟さが求められます。日本初のカクテルコンクールから90年余りを経たいま、バーを取り巻く環境は大きく変化し、より豊かでボーダーレスなカクテル体験が楽しめるようになりました。サントリー ザ・カクテルアワードは、こうした時代の変化や味覚の多様化を鋭く捉え、飲み手のニーズに合わせた革新性を取り入れながらも、日本独自のカクテルの流儀(ジャパニーズ・バーテンディング)をバーテンダーの皆さまと一緒に築き上げてきました。
2024年の募集カクテルのテーマは「次世代の飲み人に届けたいカクテル」。6月26日(水)から作品の募集を開始し、書類選考、セミファイナルを経て11月のファイナルを迎えます(サントリー ザ・カクテルアワード2024の概要はこちらから)。節目の年の“最高の一杯”は、どんな顔をしているのでしょうか。そして、その一杯はどんなストーリーを携えているのでしょうか。カクテルの “いま”が詰まったその一杯に、ぜひ、ご注目ください。