サントリー ワイン スクエア
ついに世紀のヴィンテージ2005のラグランジュプリマーが終了しました。シャトーもののオファー価格は24.00ユーロ(何と前年比71%アップ、2000年比37%アップ)というチャレンジでしたが、6/1の15:00開始直後よりコンファームが入りだし、3時間後の18:00には見事完売できました。値上率の高さ、および人気シャトーのベイシュヴェルやタルボと同じ価格でのオファーとなったことから、ネゴシアンの受け止めが気になったのですが、品質に対し妥当な価格との評価を得、追加枠の依頼が続々と入る状況となり、我々が当初から狙っていた『ネゴシアン、顧客に妥当な価格との印象を与えられる範囲での上限ぎりぎりの価格』にまさにピンポイントで落とし込めたものと思われます。
さて、それではオファー開始までを振り返ってみましょう。
まず、4月4~6日の恒例のユニオン・デ・グランクリュ(UGC)主催の試飲会で前哨戦が始まったプリマーキャンペーンは、一級シャトーは昨年の2倍、200ユーロを越えるとか、著名シャトーでは40%アップがベース、など威勢の良い噂が飛び交う、熱いスタートとなりました。価格に最も影響を与えるパーカーノート(※1)も4月末に発表され、価格上昇の絶対条件と言われる90点を超えるシャトーが続出し、いよいよ期待度が高まりました。一方で、各著名シャトーは競合の出方を窺いあう状態となり、5月最終週になってもクリュ・ブルジョワ以外目ぼしいシャトーは出ていないという、例年にない遅いプリマーとなりました。
そんな中でラグランジュが採った戦略は、まずフィエフ(※2)とレ ザルム(※3)をリ―ズナブルな価格で先行オファーし、シャトーものは指標となるシャトー(同じサン・ジュリアンの人気シャトー、ベイシュヴェル、タルボ等)の動きを注視し、前述の『ネゴシアン、顧客に妥当な価格との印象を与えられる範囲での上限ぎりぎりの価格』でオファーするというものでした。理由は明快です。まずフィエフとレ ザルムは、その位置付けが、『値頃感のある日常消費ワイン』であることから、如何に突出したヴィンテージとは言え、この位置付けを外れた値付けは賢明でありません。そこでクリュ・ブルジョワが一段落した5/30の夕刻に、フィエフ9.75ユーロ(それでも前年比41%アップ、2000年比15%アップですが)、レ ザルム8.00ユーロ(前年比16%アップ、2000年プリマー実施せず)にて開始いたしました。結果はセカンドワインながらフィエフは2日で完売、しかも追加枠依頼が多数入るというありがたい状況でした。もちろん今年は生産量が少なかったため、追加はフィエフといえども不可能でしたが。
シャトーものの値付けは、例年同様難しいものでした。パーカー評価は92-94点と高く、ワインスペクテイターも92-94点、デキャンタでは17点と、競合よりも高いアドバンテージを受けられました。しかし、指標とする競合シャトーのベイシュヴェルとタルボは24.00ユーロ(前年比60%アップ)でオファーを開始したのです。パーカー評点などの高さを武器に追随すべきか、あるいは一歩引いた価格で満足すべきか、最後の最後まで迷いましたが、クルチエからの情報などを基に、デュカス社長と24.00ユーロでチャレンジすることを最終決定し、オファーを開始。期待通り、成功裏に終了できました。
こうご報告しながら、実は複雑な心境でもあります。71%増という価格に関しても品質評価からポジティヴな反応を得られたことは、たいへんありがたい話ですが、一方で市販価格が跳ね上がることは必至ですので、これまでの価格をラグランジュのベースとお考えの方にとっては、手の出せないヴィンテージとなってしまう可能性があるからです。
この記事が載るころには、一級、二級シャトーもオファーを開始しているでしょうから、その上昇率の前では目立たない存在になっているかもしれませんが、一消費者でもある私が皆さんにお伝えできるのは、ヴィンテージ2005はその価格を裏切ることは決してない品質だということです。是非お試しいただきたいという願いをこめて、この原稿を執筆しています。
椎名敬一
ぶどう栽培研究室、ガイゼンハイム大学留学、ロバート・ヴァイル醸造所勤務、ワイン研究室、原料部、ワイン生産部課長を経て、2004年6月よりシャトー ラグランジュ副社長。2005年3月より同シャトー副会長。