サントリー ワイン スクエア
いよいよ待ちに待ったヴィンテージ2005のプリマーが始動しました。恒例のユニオン・デ・グランクリュ(UGC)主催の試飲会は、4月4~6日の3日間、例年同様7つの会場で催され、5,000人を超える来場者があったようです。前年は4,500人との発表でしたので、ヴィンテージ2005への関心の高さが窺われます。
意見交換した方々のヴィンテージへのコメントを集約すると、タンニンの成熟度がすばらしい上に果実味もしっかりと残り、更にきれいな酸がバックボーンにあるため、若いながらもふくよかさを備えた、前評判どおりの秀逸なヴィンテージというところでしょうか。個人的にはサンジュリアンとマルゴーの出来が特に良かったように感じましたが、右岸のサンテミリオンとポムロールも、メルローのアルコール度数が高い故に心配されたアンバランス感はなく、果実味に富んだ魅力的なワインが多かったように思います。ただ左岸に比べると、エレガンスの面でまだ一歩引いているように感じたのは、私が左岸派のせいかもしれませんね(右岸派の方、ごめんなさい!)。いずれにしても、左岸、右岸、さらに辛口白から甘口のソーテルヌまで含め、ボルドー全体が良いという珍しいヴィンテージであることが確認されたUGC試飲会でした。
気になるジャーナリストの評価も、ワインスペクテイターなど、メルクマールとなる評点が出始めました。今年のサプライズは、ムートンの評価です。ワインスペクテイターでは、最上位の95-100点のクラスに32シャトー(内、左岸15シャトー)を選出しています。一級および著名な二級シャトーはほとんど入っているのですが、ムートンは92-94点の評価で、UGC会場での話題のひとつとなっていました。ちなみにラグランジュも92-94点で、ムートン、ピション・バロン、ピション・ラランドと並ぶ高い評価をいただきました。4月末のパーカー評価に次なるサプライズがあるのか、注目が集まっています。
もうひとつの懸案事項…、もちろん価格ですが、一級シャトーは昨年の2倍、200ユーロを越えるとか、著名シャトーでは40%アップがベース、など威勢の良い噂が、まことしやかに飛び交っていました。この時期のアドバルーンとも言える噂は例年のことですが、今年が例年と異なるのは、仮にとんでもない価格をつけても今年はアメリカバイヤーの強気から、有力シャトーに関しては売り切り可能と見られている点でしょう。2000年を彷彿とさせる盛り上がりが見られるかもしれません。
さて、最後に2006年ヴィンテージの生育状況です。3月のワイナリー便りにて、雨が多く寒さの緩みも早い3月となったことから、今年は早いかもしれないとお伝えした萌芽は、逆に遅い動きとなっています。実際に3月の平均気温は平年より1.2度も高かったのですが、12月から2月にかけての寒波の影響が尾を引いたのかもしれません。正確にいうと、萌芽そのものは、昨年並みで平年よりやや遅い程度だったのですが、4月に入ってから低温が続いたことから動きが止まり、展葉が進まない足踏み状況が続いています。平年に比べると10日近い遅れになっているような感じがします。特にカベルネでの遅れが顕著で、萌芽時期は品質には影響しないとは一般に言われているものの、ちょっと気になるところです。ただ、4/14朝の冷え込みは厳しいものがあり、明け方には氷点下となりました。幸い晩霜の被害はなかったものの、もし萌芽が早かったら逆に被害を受けていた可能性があります。塞翁が馬ではありませんが、この時期の気象に一喜一憂する必要はないのかもしれませんね。
椎名敬一
ぶどう栽培研究室、ガイゼンハイム大学留学、ロバート・ヴァイル醸造所勤務、ワイン研究室、原料部、ワイン生産部課長を経て、2004年6月よりシャトー ラグランジュ副社長。2005年3月より同シャトー副会長。