サントリー ワイン スクエア

岩田 渉(いわた わたる)プロフィール

1989年愛知県生まれ。同志社大学在学中、留学先のニュージーランドでワインに魅了され、2014年にソムリエ資格を取得。2017年「第8回全日本最優秀ソムリエコンクール」優勝。2018年「第4回A.S.I.アジア・オセアニア最優秀ソムリエコンクール」優勝。2019年よりサントリーワイン・ブランドアンバサダー。京阪グループのフラッグシップホテルTHE THOUSAND KYOTOのシェフソムリエを務める。いま日本で最も注目されるソムリエの一人。

岩の原葡萄園130周年イベントを終えて
マスカット・ベーリーAの魅力とこの品種に懸ける思い

2021.08.12記事: 岩田渉(アンバサダー)

皆さま、こんにちは!サントリーワイン・ブランドアンバサダーのソムリエ岩田です。
先日7/10に京王プラザホテル新宿で開催された「岩の原ワイン創業130周年 記念トークセッション」にゲストスピーカーとして参加してまいりました。
セッションは2部制で、第1部は「勝海舟と鳥井信治郎の末裔が語る川上善兵衛」というテーマでした。岩の原葡萄園の創設者で、マスカット・ベーリーA(以下MBA)を生んだ川上善兵衛がぶどうづくり、ワインづくりのヴィジョンを共有し、それらを支えた勝海舟と鳥井信治郎。その両名の末裔である、高山みな子氏(勝海舟・玄孫)、鳥井信吾氏(鳥井信治郎・孫)の二人のお話とともに、川上善兵衛の曾孫にあたる川上洋氏を迎えて当時の貴重なお話を聞かせていただきました。ぶどうづくり、ワインづくりを通じて地元の社会貢献に奮闘していた川上善兵衛は、断固たる決意のもと、全財産を投じて、数々のぶどう品種を交配し、MBAを生み出しました。全身全霊で情熱を傾けた人、そしてそれを支える人。両方がいてくれたからこそ、私たちは今、素晴らしいワインを日本でも楽しむことができるんだ、と改めて思いました。ぜひ皆さんには当日のセッションの一部始終をご覧になっていただきたいので、記事の最後に動画リンクをご紹介しますね。

そして、第2部は「川上善兵衛の夢を受け継ぐ者たち」と題したセッションで、ぶどう栽培のプロフェショナル、サントリー登美の丘ワイナリーの栽培技師長の大山弘平さん、2017年に今話題の新進気鋭なワイナリーを立ち上げた「MGVsワイナリー」の代表、松坂浩志さんと私、3人でMBAの多様性や可能性についてお話ししました。そしてその登壇の最後にはスペシャルゲストとして、MBAと言えばこの人、ダイヤモンド酒造の雨宮吉男さんが登場し、貴重なお話をしてくれました。MBAを代表する方々のお話を間近で一緒に聞けたのは、本当に貴重な機会でしたし、一言一言の言葉の重みがしっかりとあり、並々ならぬ情熱を感じました。こちらも記事の最後のリンクより動画をご覧にいただけますので、ぜひお時間ある方は覗いてみてください。

さて、私はMBAの魅力やその楽しみ方について当日お話をしました。
その魅力の1つが、我々が普段の家庭でも使うような日本の発酵調味料である醤油や味噌との相性です。MBAの凝縮した力強い果実のフレーバーと同調する発酵調味料の奥行きのある味わい、そしてフレッシュで伸びやかな酸味と繊細で軽やかなタンニンがその旨味を存分に引き立ててくれます。普段の家庭での食事でも、これらの調味料を使ったお料理が数多くありますよね?例えば、炒め物や煮物、さらには焼き物にもこれらの調味料は幅広く使われますので、そういったお料理と楽しむことができるような汎用性の高さがMBAの最大の魅力とも言えます。我々の日常の家庭に一番馴染むワインがMBAであり、食中酒としての役割をどのようなタイプのワインより担ってくれる個性があります。

私はいつも、日本でもワインというお酒がヨーロッパのように各家庭でも気軽にお料理と一緒に楽しまれるようになればと、心の底から思っています。イタリアのように大きな瓶に入った赤ワインを、みんなで楽しく分け合ってコップで飲まれているようなシーンを見て、いつか日本でもそんな光景が見られるといいな、と夢見ています。将来、そんな光景を可能にしてくれるのが、日本の固有品種であるMBAであり、日本の家庭でより多く楽しまれることで、この日本のワイン文化がさらに広がっていくのだと思います。

MBAの品種としての「raison d’etre」はこの豊かな日本の食文化に寄り添うことができる、汎用性の高さです。現在は多くのつくり手の努力によって様々なスタイルの多様性に溢れるMBAが日本各地でも誕生しています。各産地のテロワールが反映された個性溢れるワインが、各産地の豊かな食文化と組み合わさることで、特別な瞬間を奏でてくれます。

MBAは、日本の食文化を彩ってくれる大切な存在です。まずはMBAからつくられたワインをより多くの日本の皆さんに楽しんでもらい、この品種の魅力に改めて気づいてもらえるように、私も川上善兵衛のように全身全霊をかけて、日本人のソムリエとして、その魅力をしっかりと伝えられるような伝道師になりたい。このセッションを通じて心に誓うことができた、本当に貴重な時間でした。

マスカット・ベーリーAのぶどう