サントリー ワイン スクエア
1989年愛知県生まれ。同志社大学在学中、留学先のニュージーランドでワインに魅了され、2014年にソムリエ資格を取得。2017年「第8回全日本最優秀ソムリエコンクール」優勝。2018年「第4回A.S.I.アジア・オセアニア最優秀ソムリエコンクール」優勝。2019年よりサントリーワイン・ブランドアンバサダー。京阪グループのフラッグシップホテルTHE THOUSAND KYOTOのシェフソムリエを務める。いま日本で最も注目されるソムリエの一人。
2021.03.19記事: 岩田渉(アンバサダー)
皆様、こんにちは!サントリーワイン・ブランドアンバサダーのソムリエ岩田です。
今回はオーストラリアより、南オーストラリア州のアデレードから約80km離れた、オーストラリア最古のワイン産地のひとつ、バロッサに位置する名門ワイナリー「ヤルンバ」を紹介させていただきます。世界的に権威あるイギリスのDrinks International誌が選んだ、「世界中の最も尊敬されるTOP50ワインブランド2020年」にランクインするワイナリーであり、創業はなんと1849年の南オーストラリア州最古の家族経営ワイナリーでもあります。
多くの伝統を持つワイナリーであると同時に、オーストラリアだけでなく、南半球のワイナリーでも唯一、自社樽工房を所有、さらには苗木の研究所もあり、様々な革新を行うなど、「伝統と革新」が見事にまで融合したワイナリーです。
苗木研究所
南半球で唯一自社樽工房を所有
チーフ・ワインメーカーはルイーザ・ローズ女史。20年以上、ヤルンバでワインづくりに貢献するだけでなく、2014年にはAWRI(豪州ワイン研究所)の議長にも選任された、世界を代表する女性ワインメーカーです。
今回は彼女の貢献の1つと言っても過言でない、「ヴィオニエ」というぶどう品種にフォーカスして、ヤルンバのヴィオニエが持つ個性について解説させていただきます。
ヤルンバのチーフ・ワインメーカー ルイーザ・ローズ氏
ヴィオニエのぶどう
ヴィオニエはフランスのローヌ地方で古くから栽培されており、コンドリューなどの銘酒を生み出すぶどう品種ですが、品種名を聞いたことがないという方も多いと思います。それもそのはず、実はこの品種は1980年代には全世界でわずか32haという栽培面積しかなく、ほとんど絶滅しかけていたのです。そうした状況となった理由の一つが、栽培の難しさです。ヴィオニエらしさをワインとして表現するためには、とても長い期間ぶどうの房を木に吊るしながら、完熟させないといけません。そうすることでヴィオニエの特徴である、アプリコットのような優美なアロマやパフュームのような華やかさ、そして肉厚なボディが得られるのです。しかしながら、今度はぶどうが熟し過ぎてしまうと、酸度が落ちてしまい、甘く、アルコール度数が高い、重くて強すぎるワインになってしまうのです。絶妙なバランスを得るのがヴィオニエの栽培において難しいため、世界でもクオリティの高いヴィオニエは一握りしかないのです。
そんなヴィオニエを、3つの異なるレンジでつくり分けながら、品種としての個性やクオリティの高さをワインで表現しているところが、ヤルンバが世界から称賛されているところであります。
ローヌ地方の有名なコンドリューのヴィオニエであれば、畑の面積も限られていると同時に、急勾配のエリアで育てられているので、栽培にも手間がかかります。手間がかかるということはどうしても人件費もかかりますので、最終的なワインの値段も高価なものが多くなります。
対照的にヤルンバのヴィオニエは、お手軽な「Yシリーズ」からミディアムレンジの「サミュエルズ コレクション」そしてトップレンジの「ザ ヴェルギリウス」とシーンに分けて楽しむことができる汎用性があります。
手軽に楽しめる「ヤルンバ Yシリーズ ヴィオニエ 2019」
ミドルレンジの「ヤルンバ エデン ヴァレー ヴィオニエ <サミュエルズ コレクション> 2018
「Yシリーズ」はそのラベルのデザインの印象的なところもさることながら、しっかりとヴィオニエの品種キャラクターが感じられるピュアな味わいのワインです。
暖かみのある、熟したアプリコットや黄桃を思わせるアロマ。金木犀のような華やかなニュアンスが心地よく調和する。丸みのある柔和な味わいで、穏やかな酸味が優しく調和する。口当たりがとてもよく、スムースなテクスチャーが印象的なワインです。
華やかで口当たりも柔らかいワインであり、ワインを飲んでみたいと思う若い方々にもぴったりなワインです。このワインを片手に、ピリッと香辛料が効いたエスニック料理とともに楽しんでいただくのがいいですね!
「サミュエルズ コレクション」。こちらはミドルレンジのヴィオニエであり、「Yシリーズ」と比べても、味わいに厚みが増しています。
香りはよりアロマティックで華やか。アプリコットやネクタリンのような黄色いフルーツを連想する甘い芳香に、ミモザのようなお花のフレグランス、ジンジャーパウダー、そしてビターオレンジのようなアクセントも。
樽で熟成されていることに由来するバニラビーンズのニュアンスも。凝縮したフルーツの熟度の高さがアタックから感じられるとともに、バロッサ ヴァレーよりも冷涼なエデン ヴァレーのぶどうを使用していることで、フレッシュで伸びやかな酸のストラクチャーが長い余韻を与える。心地よい苦味が味わいに深みをもたらしてくれるワインです。
熟成に樽を使用することで、深みのある味わいに仕上がっており、柔らかくスムースなテクスチャーにヴィオニエの華やかなキャラクターが見事なまでに調和しております。ヴィオニエは魚料理とも楽しめますが、一押しは白身のお肉です。ポークソテーなど、柔らかい豚肉の旨味溢れるジューシーな味わいを滑らかで穏やかな酸を持つヴィオニエが引き立てます。また、ハニージンジャーソースなどを添えることで、このワインが持つアロマティックなキャラクターがより一層際立ちます。
最高峰の「ヤルンバ ザ ヴェルギリウス ヴィオニエ 2017」
そして、ヤルンバのヴィオニエの最高峰といえば、「ザ ヴェルギリウス」。
上品で気品のある香りの第一印象。ヴィオニエらしい黄色いフルーツの熟した黄桃のようなアロマに、ジャスミンティーのようなアロマティックな華やかなアロマ、シュークリームのような甘くて香ばしい、クリーミーなニュアンス。非常に魅力的で、恍惚とするような香り。
味わいはトップキュヴェらしい幾重にも重なるようなフレーバーが与える複雑性と、ヴィオニエらしい肉厚でまるで熟した果肉を噛みしめるような甘美なテクスチャーが備わっている。ワインに繊細さ、気品さを与える、緻密な酸味が見事に調和し、一体感のある味わいを奏でる。ハチミツのようなフレーバーが長い余韻を与える、ヴィオニエの品種としての質の高さが存分に詰まった一本です。
香りの複雑性や味わいの緻密さ、ゆったりと流れ、広がりのある味わいを与える、艶やかで溶け込んだ酸に、ぶどうの熟度の高さをしっかりと感じる深いコク。特筆すべきはアロマの上品さ。まるで高級な「ジャスミンティー」を飲んでいるかのような、鼻腔を抜けるアロマティックでエキゾチックなキャラクターがヴィオニエの真骨頂。ジャスミンティーを飲む感覚で、ヴィオニエと中華料理を楽しんでいただくのも良いですね。またこれからの季節、春から初夏にかけておすすめの食材が「仔牛」。冬に生まれた仔牛の肉のテクスチャーは身が引き締まっているのに対し、季節が暖かくなった時に生まれる仔牛の肉質は柔らかい食感にもなります。特にフレンチの料理法でもある、「ブランケット」や「フリカッセ」のような生クリームを使ったお料理とは、抜群の相性を誇ります。
このようにシーンやお料理に合わせて、飲み比べることができるのが、ヤルンバのヴィオニエが持つ多様性の1つでもあります。是非この機会に、ヴィオニエにしか醸し出すことができない、この上品なアロマと滑らかでコクのあるテクスチャーをお楽しみください!