サントリー ワイン スクエア

岩田 渉(いわた わたる)プロフィール

1989年愛知県生まれ。同志社大学在学中、留学先のニュージーランドでワインに魅了され、2014年にソムリエ資格を取得。2017年「第8回全日本最優秀ソムリエコンクール」優勝。2018年「第4回A.S.I.アジア・オセアニア最優秀ソムリエコンクール」優勝。2019年よりサントリーワイン・ブランドアンバサダー。京阪グループのフラッグシップホテルTHE THOUSAND KYOTOのシェフソムリエを務める。いま日本で最も注目されるソムリエの一人。

牡蠣とウィリアム フェーブル シャブリ

2021.01.25記事: 岩田渉(アンバサダー)

皆様、こんにちは!サントリーワイン・ブランドアンバサダーのソムリエ 岩田です。
今回はワイン産地の中で一番有名と言っても過言ではない、「シャブリ」についての紹介です。「シャルドネ」という品種からつくられていることは知らないけど、「シャブリ」というワインは聞いたことがあるという方も多いと思います。
世界中で数多くの素晴らしいシャルドネが生産されておりますが、他のどのエリアでつくったとしても、この「シャブリ」というワインだけが持つ、唯一無二のキャラクターは得られません。シャブリというワインはそれだけ、この産地が持つユニークなテロワールがワインに如実に現れるのです。

その個性を引き立てているのは、「キンメリジャン」と呼ばれる、1億5千万年前のジュラ紀後期に形成された土壌です。灰色の泥灰土の土壌と白い石灰の土壌がミルフィーユの様に連なっており、さらにはこのシャブリ地区ではそのキンメリジャンの土壌の中に、「エクゾジラ・ヴィルギュラ」呼ばれる小さな牡蠣の化石が数多く見られます。シャブリの独特な「海を思わせる様なミネラル感」というのは、この様な特異な土壌構成からもたらされていると言っても過言ではありません。それゆえに、魚介類にはシャブリ、特に「牡蠣にはシャブリ」とよく言われる訳であります。

そして、ウィリアム フェーブルというつくり手はこのシャブリを語る上では切っても切り離せない、この産地の代表的なつくり手であります。
ウィリアム フェーブル氏はシャブリ委員会理事長として、このキンメリジャン土壌にこだわり、また新世界での「シャブリ」の呼称を守ることにも尽力しました。1998年のフェーブル氏の引退後は、ブシャールの改革に成功していたアンリオが経営を引き継ぎ、醸造責任者として当時はまだ若手であったディディエ・セギエ氏を抜擢しました(当時31歳。現在の岩田と同い年です・・・)。栽培、醸造、瓶詰めに至るまで、大改革を行い、「畑の個性を最大限に引き立てる」ワインづくりを実践しました。今ではセギエ氏の下で、畑ごとの個性がしっかりと現れた、ピュアでクリーンなスタイルが魅力的となっているワインであり、まさにシャブリの「テキストブック」と呼ばれる様なスタイルのワインをつくり続けております。

ディディエ・セギエ氏。後ろはフランスの牡蠣の養殖場。

私自身もシャブリには数度訪問したことがあります。その時もウィリアム フェーブルを訪問し、セギエ氏とちょうど収穫の時期にお会いした時には、ぶどうの選果台でスタッフと一緒に一粒一粒を確認しながら、最高品質のぶどうのみを自ら厳選するその姿がとても鮮明に記憶の中に残っております。ウィリアム フェーブルのシャブリの品質の高さの秘訣の様なものを垣間見た瞬間でありました。

シャブリのぶどう畑

さて、「牡蠣にはシャブリ」とよく言われておりますが、欧米では「Rのつかない月には牡蠣を食べるな!」と言われ、日本でも「花見を過ぎたら牡蠣を食べるな!」とも言われますが、冬の時期の「真牡蠣」はとてもクリーミーで上品なコクが味わいに感じられます。今回は少しだけ、牡蠣とシャブリのペアリングについてお話しさせていただきます。
牡蠣の食べ方は様々あります。もちろん生牡蠣にレモンを軽く搾り、そこにシャブリを合わせて楽しむ、というのも王道なペアリングではありますが、シャブリと牡蠣のペアリングはそれだけに終わりません。もちろんシャブリにも「ヴィンテージ」というのがありますので、2017年の様な程よく冷涼で酸のメリハリがしっかりと効いた年もあれば、2018年は対照的に暖かいヴィンテージであったので、より丸みがある、フルーツの熟したトーンが感じられやすいヴィンテージでもありました。(ちなみに2019年はこの二つのヴィンテージの個性を足して2で割った様な素晴らしい一年でした)
この様に、それぞれのヴィンテージに合わせた楽しみ方というのもシャブリを牡蠣と合わせて楽しむ秘訣でもあります。涼しい年のシャブリでは、例えばそのフレッシュな酸味とミネラル感を考慮して、シンプルに真牡蠣にレモンを搾り、同じ様なフレッシュな状態の牡蠣を楽しむのも良いですが、暖かいヴィンテージのものであれば、ワイン自体もよりボリュームがありますので、牡蠣自体を「調理」して、その香りを凝縮させるのもおすすめです。特にご家庭などでも楽しみやすい様な「カキフライ」などは油で揚げることで、牡蠣本来の風味がグッと衣の中に包まれ、より凝縮感が増し、さらにはタルタルソースなど、クリーミーなソースを添えることで、そのコクのあるフルーツの質感とも口中でマッチします。
または少し熟成したウィリアム フェーブルのシャブリや、プルミエ・クリュやグラン・クリュのものになれば、その分複雑性というのはどんどんと増していきますので、牡蠣のグラタンなどとも合わせても良いですね。このシャブリというワインが持つ、独特なヨードや海の様な香りを思わせるミネラル感には、牡蠣の風味がやはり調和します。そのハーモニーを思う存分楽しんでいただくためにも、ワインの状態を意識しながら、調理法なども少しアレンジしていただくとご家庭でも最高のペアリングが楽しめると思いますので、ぜひこの時期は王道の「牡蠣とウィリアム フェーブルのシャブリ」のペアリングを楽しんでいただければと思います!

ウィリアム フェーブル シャブリ 2018

香りは穏やかで、控え目な第一印象。
熟した洋ナシや赤リンゴのようなアロマに、ほんのりとトーストした様なニュアンスが加わる。そして、シャブリというワインを際立たせる、牡蠣の貝殻の様な独特なミネラル感が香りに程よいアクセントを与える。
フレッシュで生き生きとしており、爽やかな酸が主体となったドライな味わいに、熟したフルーツのフレーバーが柔らかいテクスチャーも与える。2018年らしいボリュームに、全体的に滑らかで丸みのあるボディを感じさせる。
余韻ではほのかな塩味を思わせる、心地よい苦味があり、味わいに奥行きを加えている。

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