バーボンウイスキー・エッセイ アメリカの歌が聴こえるバーボンウイスキー・エッセイ アメリカの歌が聴こえる

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“イット”ガール

この時代、大人気となった女優がいる。クララ・ボウ。

スタイル抜群というわけでもなく、小柄でまんまるな顔に大きな目。その名にふさわしくキューピットが手にしているボウ(弓)のように可愛らしい唇。フラッパーの時代のひとりであることはもちろんだが、彼女だけがもつ素敵な異名がある。“イット”ガール。

ボウは1927年、エリナー・グリーンの小説『It』の映画化の主演により、20年代の女性のイメージである“イット”ガールの地位を獲得した。

エリナー・グリーンはイギリスの女流作家だった。彼女はイットの感覚にふさわしい女性を探しにハリウッドを訪れ、クララ・ボウを選んだ。さらに彼女はハリウッド映画にヨーロッパのエレガントな行儀作法を持ち込み、教え込んだといわれている。

優雅さなどまるでなく、がさつな演技しかできないアメリカの男優たちはグリーンの指導によって女性のエスコートの仕方を学んだ。レディの手を取り、その甲にキスするといったことまで教わった。

すべてはアメリカ映画をヨーロッパの観客はもちろん、世界中の観客に観てもらえるようにするためだった。

グリーンによるとイットとは、両性を惹きつける不思議な魅力をもっている人のことで、それは性的な魅力であって、美は不要である、という。特質こそが重要らしい。ボウが扮するデパート・ガールとゲーリー・クーパー扮する精力的なビジネスマンとのロマンティックでセクシーなドラマが、フラッパーたちの夢をあおった。

ボウはスター伝説そのものだった。ブルックリンの貧しい家庭に生まれ、服装がみすぼらしいと女の子仲間から馬鹿にされながら育つ。16歳のときに美人コンテストで優勝したご褒美でハリウッドに行き、カメラテストを受ける。長期契約はなく端役をこなし、やっと『It』により一躍スターになった。そのとき21歳。ビバリーヒルズのバンガロー風の家に住み、女性のズボン姿が稀な時代にラフな格好で履きこなし、連日連夜パーティーを開いては乱痴気騒ぎ、ジャズをボリュームいっぱいにかけ、酒を飲んだ。


しょっちゅう事件を起こして“クライシス・ア・デイ(一日一災)のクララ”とあだ名された彼女にふさわしい酒はなんだろうと、いまわたしは思案する。

あの時代にメーカーズマークが飲めたとしたら、彼女に「メーカーズマーク・オレンジモーニ」をすすめただろう。プレミアムバーボンをオレンジジュースとトニックウオーターで割ったカクテルが“イット”ガールにふさわしい。何よりも華やぎがあって美味しい。

小麦由来の温かみのあるメーカーズマークの甘さと、オレンジの甘酸が相まって、やんちゃでチャーミングなボウを束の間おとなしくさせ、さらには次のやんちゃへの活力を与えることだろう。

(第8回了)

for Bourbon Whisky Lovers