バーボンウイスキー・エッセイ アメリカの歌が聴こえるバーボンウイスキー・エッセイ アメリカの歌が聴こえる

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7thイニング・ストレッチ

2016年もあと少しで終わりを告げる。12月31日の除夜(大晦日の夜)になるとお寺で108回の鐘を撞(つ)く。108とは人間の煩悩の数を示すという説が一般的だ。他には1年間を表すとか、四苦八苦を取り払うという説もある。

四苦八苦はダジャレ的な語呂合わせのような気がする。4×9+8×9=108ということらしい。吹き出しちゃうけれど、この説が好きである。

今年のMLB(メジャー・リーグ・ベースボール)。シカゴ・カブスが球団史上3回目のワールドシリーズの覇者となった。カブスがその前にワールドチャンピオンに輝いたのが1908年(初制覇は前年の1907年で2年連続)。20世紀初頭のことだから、なんと108年ぶり。当時のゲームをリアルタイムで観戦した人などいまや生存しているはずもないだろうが、煩悩を振り払って、やっと四苦八苦から抜け出せたのだ。

途中、1945年のワールドシリーズ第4戦で、いつも山羊を連れて観戦していたファンの入場を拒否した。他の観客から臭いと苦情があったせいだが、怒ったそのファンから「二度とカブスはワールドシリーズで勝てない」と、“山羊の呪い”をかけられたりもしていた。

カブス球団首脳が早くに大晦日に日本にやってきて、どこかのお寺で鐘を撞いていたならば107回もの苦しみを味わうことがなかったのではなかろうか。山羊の呪いも解けたのではないだろうかと思ったりもする。

煩悩が由来であるはずはないが、面白いことにボールの縫い目も108である。1948年にMLBが公式に定め、日本もアメリカに倣(なら)った。これはボールの皮と糸の耐久性を検証した上で、縫い目の数が決定されたものらしい。

とはいえ、カブス・ファンは縫い目の数ほどもの年数を待ち焦がれたのだ。


カブスが前回チャンピオンとなった1908年、同じ年に誕生したMLBファンの愛唱歌がある。『Take Me Out to the Ball Game』(わたしを野球に連れてって)。日本でも野球ファンならば誰もが知っている曲だ。

野球大好きの女性がボーイフレンドに野球に連れてってとねだる。ピーナッツとクラッカージャック(キャラメルでコーティングされたポップコーン)も買ってちょうだい。家に帰れなくなってもかまわない。こんな内容の歌詞だが、この曲が生まれたとき、作詞者、作曲者とも野球観戦の経験が一度もなかったことでも知られている。

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