主催公演

サマーフェスティバル
特集ページへ

『Legit Memories(組曲 甘い記憶)』(2023)[世界初演]
プログラム・ノート

小出稚子

小出稚子

I. Langgam “Wedang Ronde” Slendro

II. Interlude “Roti Bakar” Slendro & Pelog

III. Langgam “Kelapa Muda” Pelog

IV. Interlude “Es Buah” Slendro & Pelog

V. Langgam “Pisang Goreng” Slendro

小出稚子

題名は「甘い記憶」という意味で、松田聖子の名曲「SWEET MEMORIES」からもじりました。ジャワの甘味の名がついた5つの小品からなる組曲で、昔ミッドタウンの虎屋で催されていた数種類の和菓子に大友良英さんが音楽をつけるという展示や、湯山昭さんのピアノ小品集「お菓子の世界」のような感じで、音楽で甘味を描いています。このうち3曲はLanggam―ジャワの大衆歌謡曲。ガムランで伴奏されることも多く、西洋音楽のイディオムと伝統的な音楽理論が良い塩梅で同居する―で、残りの2曲は歌と歌をゆるやかに繋ぐ間奏曲です。自分の好きなジャワのスイーツをしみじみと愛でる枕草子的な作品を作りたいと思い、歌詞では各甘味を擬人化したり、音楽では各々の甘味の持つ特徴や行きつけのワルンの雰囲気を再現してみたり。とにかくできるだけ一般化せず、私が愛する"あのお店のあの一品”を音楽と言葉で語り尽くすプライベートな作品です。

最近は「境界の曖昧さ」を作曲上のテーマとしており、複数の世界の間を揺れ動くというのもこの作品の音楽的な特徴の一つです。pelogとslendro―ガムランの2つの音階を行き来し、時には重なる―、barang miring―"傾く"という意味を持ち旋法構成音以外の音を加え陰影をもたらす手法を応用する―、西と東―西の楽器であるSaxophone、ジャワと西洋の両方のスタイルを行き来する歌い手、そして伝統の枠組みをじわじわと拡張してゆくガムラン―、母国語と外国語―日本語とインドネシア語―、歌曲と器楽曲―LanggamとInterlude―など、できるだけ境界をぼかし、各々の音楽世界の濃度を濃くしたり薄くしたりすることで様々な世界への滑らかな接続を試みています。天気雨のような音楽をお楽しみください。

“Wedang Ronde” ウェダン・ロンデ:
温かくて甘い生姜スープにピーナッツ餡の入った白玉やコランカリンの実を浮かべたもの。

“Roti Bakar” ロティ・バカル:
パンにチョコレートやチーズ等を挟み、たっぷりのマーガリンと共に鉄板で焼いたホットサンド。

“Kelapa Muda” クラパ・ムダ:
若い椰子の実の中の果肉や果汁(正確にはどちらも胚乳)を飲むさっぱりとした飲み物。

“Es Buah” エス・ブア:
パパイアやジャックフルーツ等色とりどりの南国の果物が沢山入った荒削りのかき氷。

“Pisang Goreng” ピサン・ゴレン:
衣をつけて揚げたバナナ。多種多様なバナナの中でも、揚げ物に適した品種が使われる。

歌詞

“Wedang Ronde”
Keprabonに明かりが灯る夜
黄金色の透明なお湯に浸かり目を閉じる
月 蕾 浮かぶスープ Wedang ronde
ほどけてゆく身体

“Kelapa Muda”
Layaknya cincin astagina 天国の水 割って入ってきなさい
terhampar didalamnya 逢いたいのなら belanjanmu dalam tempurung cinta
霞む視界 kering kerontang 影のない下り坂 
keringat dan dahaga 逃げ水 serpihan surga 空から落ちる
membanjiri selaput 床に滲む
meluluh lantahkan lelah dahaga, kelapa muda yang kudamba

豊かな水瓶 air surga 内に広がる世界
belahlah dan temukan kenikmatan tiada tara 貴方の欲しいものは全て分厚い殻の中
jalan terjal 渇き debu dan panasnya matahari
照り返し fatamurgana merayu つるりと滑る白い果肉
laksana mukzijat 破水の時
meluluh lantahkan lelah dahaga, kelapa muda yang kudamba

“Pisang Goreng”
Pisang goreng manis
Pisang goreng tidak bisa berhenti
Meskipun makan banyak tambah lagi
Melengkung menawan tubuh mu lembut di mulutku
Bukan mannga bukan jambu tapi kamu

作詞協力:Sumiyanto/Darsono Hadiraharjo
協力:木村佳代/加藤駿吾

サマーフェスティバル
特集ページへ