サントリー食品インターナショナルは、九州大学・久山町研究(研究代表:九州大学大学院医学研究院 衛生・公衆衛生学分野 二宮利治教授)と当社を中心とする研究グループによる共同研究にて、緑茶に含まれる成分テアニン特有の代謝物であるエチルアミンの血清濃度が高い人では、将来の2型糖尿病発症リスクが低いことを明らかにしました。また、久山町研究の結果を踏まえて、当社が実施したテアニンを含む緑茶飲料の摂取による人の血清エチルアミン濃度に関する研究では、日常的な飲用が体内での一定量の残存に寄与することを示唆する結果を得ました。この一連の研究は、二宮教授を筆頭研究者とする論文投稿を経て、米国時間の2019年5月10日(金)に米国糖尿病学会の専門誌『Diabetes Care』にてオンライン掲載されました。
テアニンは、緑茶の旨味や甘みの素となる茶葉特有のアミノ酸で、摂取後約1時間をピークに速やかに代謝されて、グルタミン酸とエチルアミンに分解されます。従って空腹時の採血では血清中のテアニンを検出することは困難ですが、エチルアミンは摂取後24時間以上血清中に残存します。この点から血清エチルアミンの濃度を緑茶の摂取量を反映する客観的指標と考えられることに着目し、地域住民を対象とした前向き追跡研究の成績を用いて、血清エチルアミン濃度と2型糖尿病発症の関連を検討しました。過去に血清エチルアミン濃度と2型糖尿病発症の関係を検討した疫学研究はありませんでした。
本研究では、2007年の久山町生活習慣病健診を受診した40-79歳の男女2,957人(受診率77.1%)のうち、保存血清から血清エチルアミン濃度を測定出来た非糖尿病の住民2,253人を7年間追跡した結果、血清エチルアミン濃度の上昇に伴い2型糖尿病の発症リスクは有意に低下しました。さらに、肥満およびインスリン抵抗性を有する住民では、血清エチルアミン濃度と2型糖尿病発症の間により強い負の関係を認めました。
この研究結果を踏まえ、当社では健康な中高齢男女を対象に、緑茶飲料の摂取による血清エチルアミン濃度の推移に関する研究を行いました。その結果、緑茶飲料を継続的に飲用することにより、久山町研究で示された2型糖尿病の発症リスクが低い群の血清エチルアミン濃度を上回る濃度が維持されることが推定されました。
当社では、嗜好品であると共に健康飲料としての緑茶の価値を希求し、お客さまの健康の維持増進に貢献していきたいと考えています。
〈参考資料〉
久山町研究について(九州大学久山町研究室WEBサイトより参照、抜粋。)
1961年から、福岡市に隣接した糟屋郡久山町(人口約8,400人)の住民を対象に脳卒中、心血管疾患などの疫学調査を行っています。久山町住民は全国平均とほぼ同じ年齢・職業分布を持っており、偏りのほとんどない平均的な日本人集団となっています。研究の発端は、日本の死亡統計の信憑性に疑問が投げかけられたことにあります。当時、脳卒中はわが国の死因の第1位を占めていました。なかでも、脳出血による死亡率が脳梗塞の12.4倍と欧米に比べて著しく高く、欧米の研究者からは「診断に問題があるのではないか」との声が上がりました。しかし、当時はそれを検証するための科学的なデータがありませんでした。そこで日本人の脳卒中の実態解明を目的として始まったのが久山町研究でした。1961年から追跡を開始した第1集団(剖検率80%)の初期のデータでは、脳出血による死亡率は脳梗塞のわずか1.1倍であることを剖検という科学的な手法で証明しました。
久山町研究の特徴の一つに受診率の高さがあります。健診は健康意識の高い人が受診する傾向があるため、この受診率が低いと地域の健康状態の実態とは異なる結果になります(選択バイアス)。久山町研究では、40歳以上の久山町住民の70-80%が健診を受診しているため、選択バイアスの少ないデータを基に、時代ごとの生活習慣の移り変わりの影響や、危険因子の変遷をうかがい知ることができます。さらに、追跡調査の精度も高く、これまでに行方不明となった対象者は数例に過ぎず、追跡率は99%以上を実現しています。また、本研究では、お亡くなりになった方の約75%において前述の剖検にて正確な死因を同定しています。
最近では、九州大学病態機能内科学、衛生・公衆衛生学分野、精神科神経科、心療内科、循環器内科、呼吸器科、眼科、予防歯科、健康科学センターなど幅広い分野から大学院生や若手研究者が集まり、研究テーマが生活習慣病全体に広がっています。久山町研究は、臨床と疫学の両方を俯瞰できる幅広い視野を持つ人材を育てるユニークな疫学研究です。2002年には、従来の環境因子に遺伝子解析(SNPs)を加えた生活習慣病のゲノム疫学をわが国で初めて開始しています。
以上