MENU
ヨーロッパでは、もともとの天然水に炭酸を含む硬水が多いため、食事の際の水も炭酸水を飲むことが一般的です。日本でも、健康志向を背景に炭酸水への関心が高まり、日常的な飲用水としての消費量が伸びています。炭酸水が、消化不良などの胃腸症状を緩和するといった機能性についての研究報告はこれまでにもありました。しかし、炭酸水の摂取が私たちの体にどのような変化をおよぼすのかという研究報告はほとんどありませんでした。私たちは、飲料としての炭酸水が体に与える作用を研究し、体温を調節する生理作用があることを発見しました。
炭酸水を飲んだ時のいちばん大きな印象は、口に含んだ瞬間の感覚刺激です。私たちは、炭酸水が人の体にどのような変化をもたらすのかを、口の中で自覚する感覚刺激の影響と、実際に飲み込んだ後の影響の2つに分けて調べました。それぞれの条件下で体の生理的な変化を捉えることを目的に、体の深部の体温をしめす鼓膜温、末梢の皮膚温をしめす足先温、自律神経の機能がどう働いたかを反映する心拍数を測定しました。
年齢や身長、身体条件の近い女性13人を被験者として実施。水温15度の炭酸水と炭酸を含まない軟水を用意し、右の4条件の比較を行い、感覚刺激の影響か飲水の影響なのかを調べました。
実験は、安静状態で体温と心拍を20分間測定し、水150mlを5分間かけて摂取してもらいました。その後、体温と心拍を40分間測定し、この間に胃電図も測定しました。また、自覚症状については飲水前、飲水後の10分ごとのデータを取得しました。
深部の体温(鼓膜温)と末梢の体温(足先温)は、高感度サーモセンサーを用いて測定し、13人の被験者から得た平均値を用い、4つの条件を比較しました。その結果、炭酸水は、軟水よりも末梢体温を有意に低下させることがわかりました。しかも炭酸水を飲み込まなくても、口に含んだときの感覚刺激だけでもその変化は起きました。また、自律神経機能を調べる心拍測定からも、炭酸水を口に含んだときの感覚刺激のみで一過性の心拍数が上昇し、それが他の条件よりも有意に認められました。このことから、炭酸水を口に含むと、その刺激が脳に伝わり、自律神経に作用して末梢体温や心拍数に影響を与えたと考えられます。
冷たい炭酸水も冷たい水も、飲み込むことで同様に体温を下げますが、これに加え、炭酸水の場合は、口の中での感覚刺激が、体温の低下にプラスの効果を生み出すことが明らかになりました。夏場、服装による体温調整の他に炭酸水の飲用で体温低下の実感を上手に取り入れれば、より涼しさを感じることができるでしょう。炭酸水の活用は、飲む「クールビズ」だと言えるかもしれません。
私たちは、お客様の快適な日常生活をサポートするために、人の体に起こる多様な変化を捉えることで、飲料の摂取からさまざまなお客様価値を生み出せるよう研究を続けています。今回の研究では、炭酸水には、口の中の感覚刺激だけで体温を調節する生理作用を持つことが明らかになりました。すなわち、冷たい炭酸水には、体を効率的に冷やす機能を持ち合わせていることがわかったのです。このように、飲料の摂取には、日常生活を快適に過ごすための工夫が隠されていることがあります。どんな飲み物が体にどのような作用をするのか? その原理原則にさかのぼって研究を進め、隠された作用や仕組みを解明することで、新しい飲料の提案に役立てていきたいと考えています。お客様に、より快適で満足度の高い日常生活を提案できるよう、さらに研究を進めていきます。
※部署名、役職名、写真は、制作(インタビュー)当時のものです。
※部署名、役職名、写真は、制作(インタビュー)当時のものです。