「天然水の森」の生き物

シカ

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その愛らしい姿で観光地でも人気の高いシカ。実は今、全国でシカが増えすぎたことによる被害が広がっています。

どんなに可愛くても

日本全国で、増えすぎたシカの食害が広がっています。シカはおいしい草や木から食べ始め、それを食べ尽くすと、今度は嫌いな植物も食べ尽くし、最後は毒草まで食べられるようになってしまいます。

シカの食欲から逃れられる植物はほとんどありません。シカに食べ尽くされた植物の順番に、その植物に依存していた虫や鳥、哺乳類なども姿を消していきます。地表を食べ尽くされ、地面が剥き出しになった斜面では、土壌が流され、ひどい場合には斜面崩壊も始まっています。被害は農業や林業だけでなく、生態系全体に及んでいるのです。

シカに草や低木を食べられ、雨で土壌が流され、剥き出しになった地面

シカ算的に増えていく

シカは繁殖力が強く、適切な頭数制限をしない限り、毎年1,2倍程度のスピードで増えていきます。この調子で増え続けると、15年で10倍になってしまうのです。

かつては、緑を食べ尽くしてしまえば、餌不足になって減るだろうという予測が立てられていたのですが、冬場に落ち葉だけを食べて、元気に生活しているシカがいることが明らかになりました。落ち葉でいいなら、餌資源は無限大です。このまま放置すれば、日本の生物多様性は、壊滅的なダメージを受けてしまいます。

シカ算のグラフ

「天然水の森」の取り組み

「天然水の森」では、貴重な植物や、シカに食べられやすい植物が残っている場所、新しく植樹した場所、人工林を間伐して地面に草や広葉樹を誘導したい場所などを、植生保護柵で囲っています。その森ならではの遺伝子を未来に残す活動のひとつです。

植生保護柵の内側では草木が生い茂り、外側と大きな差が出ている

大切な土壌を守る

実施している対策は植生保護柵だけではありません。柵の外では、地下水涵養と生物多様性の基盤である森林土壌を守るために、シカの不嗜好性植物(※)で地表を覆う対策も講じています。

不嗜好性植物は種数が少ないため、生物多様性の面では一見マイナスに見えるかもしれませんが、いったん土壌が流されてしまうと、再生には気が遠くなるような歳月が必要になります。そこで将来、シカの頭数が適切な数までコントロールできるだろう日のために、せめて土壌だけは守っておこうという緊急避難的な対策です。

シカが減った暁には、柵の中で保護した植物たちが、柵外に広がって、本来の多様性を再生してくれるはずです。そんな日が一日も早く来ることを願って。

シカが全く食さない、あるいは好んで食さない植物

究極の対策は、頭数のコントロール

残念ながら、この対策は一企業では困難です。「天然水の森」でも、地元の猟友会の努力で植生が回復傾向にある森もあります。しかし、緑が回復してくると、周辺の森から新たなシカの群が移動してきてしまうのです。そのため、県レベル、できれば、県境を越えた広域の連携で、抜本的な対策をとる必要があります。

活動に関する失敗談

活動を進める中では、思いもよらない失敗や、それに伴う発見も多くあります。ここからは、失敗談の一部をご紹介します。

シカが食べないはずだったのに?

シカが多い土地で柵の外に植樹するためには、その地方でシカが食べないとされている不嗜好性の苗木を植える必要があります。しかし、最初のうちに植樹したエリアでは、植えた苗は全て食べられてしまいました。

同じエリアの中でも、種から自然に芽生えてきた同じ品種の苗は食べられていないことも分かりました。肥料を与えて育てた苗は、シカに食べられやすいようなのです。この気づき以降、柵の外に植える苗は、最低一年、無肥料で育てることにしました。

シカの不嗜好性の苗木を調べている実験区の様子

この活動に携わる専門家

服部 保

兵庫県立大学 名誉教授

株式会社里と水辺研究所

シカ柵での試行錯誤

「天然水の森」を始めた頃には、金属の柵を設置すれば、あまり失敗はないだろうと考えられていました。

ところが、谷地形では、雨の後に掘削された隙間を通ってシカが侵入したり、柵の外の切り株を踏み切り台にして飛び込んだり、斜面上部からの飛び込みなどもあり、そのたびに、新たな防止策をとってきました。その試行錯誤の一部をご紹介します。

シカが柵を飛び越えそうな場所は柵を嵩上げ
シカの助走を防ぐためにスカートネットを設置
踏み切り防止のために伐り株を地際でカット
谷地形には金属の杭を打ち込み、シカのくぐり抜けを防止

それでも、倒木で柵そのものが破壊されたりすることもあります。そこで現在は、電波の入る森には、通信機つきのカメラを設置しています。

柵内にシカが侵入した場合には、すぐに駆けつけ、シカの追い出しと破損箇所の修理を行っています。見回りの手間が省けるようになったのは、大きな前進でした。

カメラに映ったシカの侵入の様子

「天然水の森」には他にもたくさんの生き物が暮らしています

鳥類、哺乳類、昆虫類、土を育む生き物などをご紹介します。

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