SUNTORY CHALLENGED SPORTS PROJECT

#43 「初めて見た時の「カッコイイなあ」。あの感動が今も続いている」

#43 「初めて見た時の「カッコイイなあ」。あの感動が今も続いている」

車いすバスケットボール 萩野 真世選手

サントリーチャレンジド・アスリート奨励金第1期~4期対象
サントリーオフィシャルパートナーチーム「宮城MAX」「SCRATCH」所属

Q.競技との出会いは?

 脊髄腫瘍のために幼い頃から車いす生活でしたが、兄が少年野球で頑張っていたこともあり、スポーツを見るのは大好きでした。
 車いすバスケットに興味を持ち始めたきっかけは、中学生の時に読んだ新聞記事です。2008年の北京パラリンピックの出場選手を紹介する記事で、地元・宮城県の「宮城MAX」に所属する藤井新悟選手と、藤本怜央(れお)選手を取り上げていて。2人ともめちゃくちゃカッコよかったんです。
 その後、日本代表チームの合宿が女子代表ヘッドコーチだった岩佐義明さんの故郷の宮城県山元町で開かれ、そこで車いすバスケの体験会もあると聞きまして。当時、私は人見知りがひどくて、近場なのに自分1人では行けませんでしたが、母が強く勧めてくれて、本物を見る機会ができました。
 その合宿に集まった選手たちが、もう本当にカッコよくて......。新聞で読んだ以上の男子選手の迫力にも圧倒されましたが、女子のプレーも、男子に比べたらスピード感で劣る部分はあるけれど、丁寧に声をかけあってパスをつないでいく、次々とコミュニケーションを取る姿が「カッコイイなあ」と、感動しました。あの時に感じた憧れは、今もずっと自分の中で続いています。
 そしてその時、「仙台でも練習してるよ」と声をかけて頂いたのが、藤井郁美選手でした。今ではチームメートとなりましたが、常にリードしてくださる、頼れる大先輩! とにかく言葉で表現するのが難しいほど大きな存在です。

Q.最初の頃は、うまくできずに悔しい思いもしたのでは?

 北京パラリンピックの後、宮城MAXの練習に通うようになりましたが、物心ついた時から車いす生活だった私は運動経験ゼロ。だからしばらくは「練習生」という扱いで、体育館の端っこでバスケ車(競技用車いす)で走ったり、コートが空いてる時間にシュートを打たせてもらったりしていました。
 宮城MAXは基本的には男子チームなので、練習は男子選手に交じってになるし、その中にいる女子もパラリンピックに行くクラスの選手です。「自分がいきなりここに入るなんて無理だよな」と思いました。でも、コートの端から見ていた選手たちの姿がとにかくカッコイイので、「早く一緒にやりたい」と夢中で、嫌になることはなかったですね。
 2009年2月、東北で初の女子の車いすバスケチーム「SCRATCH」(スクラッチ)が発足するというので声をかけて頂いて、本格的に練習できるようになりました。車いすバスケは障がいの程度に応じた「持ち点」で選手を組み合わせてチームを作る競技ですが、ちょうど私のような障がいの程度が重い「ローポインター」の選手がいない状況だったそうです。
 私の持ち点は1.5点です。脊髄腫瘍のため神経が遮断されていて腹筋と背筋が動かせない状態です。前かがみができないなど、動きが制限される部分はありますが、それでも高校を卒業してすぐ車の免許を取って、自分でジムに出かけていってウェートレーニングをやったりして、今ではローポインターとしてはシュートが得意な方になりました。車いすバスケを始めた当初はきゃしゃでしたが、今では肩幅も45センチ以上はあるんですよ。
 障がい者が自分で車を運転して自分ひとりでどこにでも行く、ということを知ったのも車いすバスケのおかげです。今ではバスケのためなら東京にも自分で運転して行きますね。

Q.コートの中で、つねに大切にしていることは何ですか?

 コミュニケーションです。障がいの程度が異なる者同士でチームをつくっているので、それぞれ何ができて何が得意なのか、お互いのことをよく知る必要があります。一緒に練習を続けているうちに「このボールは取れるかな、ダメならこれはどうかな」ということを考えながら、お互いを知るようになる。そういうコミュニケーションがとても重要な競技なのです。
 それから、周囲への感謝。いま社会人3年目ですが、入社する段階で会社に「車いすバスケをやっていきます」と伝えてありますが、遠征試合で1週間とか職場を空けることもたびたび。職場の方々には本当に助けられていて、ありがたい存在です。ずっと一緒に頑張ってきた「SCRATCH」のメンバーにも感謝しています。いま私がキャプテンをやらせて頂いていますが、お互いへの信頼がなくては勝てないので、メンバーに信頼してもらうためにも、自分がもっともっと力を付けなくては、という思いでいます。

Q.目標は?

 直近では4カ国対抗の親善試合「大阪カップ」(2月15日~17日、大阪市中央体育館)で結果を出すこと。今年は世界選手権の年ですが、日本は去年の予選で敗れてしまったので、数少ない国際大会で力を出す貴重な機会です。そして「SCRATCH」でも勝ちたいですね。2011年を最後に女子選手権で優勝していないので「今年こそ」と思っています。それから2020年のパラリンピック。経験がないのでとにかく出場して、一つでも多く勝つことが目標です。

Q.障がい者スポーツに挑戦してみたい人にアドバイスを。

 私自身がそうでしたが、何でも最初からうまくやれるわけではないので、まずは「あれをやりたい!」という強い憧れや強い思いが、何かを始めるうえでは大事なことです。技術面は練習してうまくなるもので、そのためには何であれ、挑戦しようとするものが好きでなくては。わたしにとって車いすバスケは今も「カッコイイ」スポーツのままですから。

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萩野 真世選手MAYO HAGINO

サントリーチャレンジド・アスリート奨励金第1期~4期対象
サントリーオフィシャルパートナーチーム「宮城MAX」「SCRATCH」所属

  • ●1993年3月9日生

  • ●宮城県仙台市出身・在住

  • ●障がい名:脊髄腫瘍
    経緯:病気(脊髄腫瘍)のため、小さいころから車いす生活

  • ●中学生のころ、新聞に車椅子バスケットボール選手の記事が掲載され興味を持ち、地元で開催されていた女子日本代表合宿での体験会に参加したことがきっかけに競技を開始

  • ●2009年に発足された女子車椅子バスケットボールチーム「SCRATCH」創設と共に本格的に競技に取り組む。
    2017年より男子チームへの登録が可能になり、男子日本選手権へ出場

  • ●主な大会出場実績・戦績(
    【日本代表として出場した国際大会】
    2010年世界選手権大会
    2011年U―25世界選手権大会
    2014年世界選手権大会
    2015年U―25世界選手権大会(個人賞ベスト5)

    【SCRATCHとして】
    2011年女子選手権大会 優勝

    【宮城MAXとして】
    2017年日本選手権大会 優勝(9連覇)

PASSION FOR CHALLENGE
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