SUNTORY CHALLENGED SPORTS PROJECT
#32 「後悔しないために現役続行。目標は2019年デフリンピックのメダル。」
アルペンスノーボード 星 奈々選手
Q.競技との出会いは?
私は生まれつき耳がほとんど聞こえません。補聴器をつけて、パトカーや消防車のサイレンの音が聞き取れるくらいです。ただ、雪国の南会津に生まれたので、小さいころからスキーには慣れ親しんでいました。
高校(福島県立聾〈ろう〉学校高等部)を卒業した1999年、当時流行していたスノーボードをやってみたら面白くて、はまりました。それから趣味でスノーボードを楽しんでいましたが、ろう学校の先輩で、デフリンピック(4年に一度開かれる聴覚障がい者のスポーツの祭典)でアルペンスノーボード日本代表だった星雄一から「運動神経が良さそうだから、アルペンスノーボードをやってみたら」と勧められ、2009年からこの競技を始めました。
その後、星と結婚しました。現在、夫は競技を引退していますが、私の競技生活を応援してくれています。
Q.競技の魅力、また現在の目標は?
アルペンスノーボードは決められた旗門を通りながら斜面を滑り降り、ゴールまでのタイムを競います。魅力は、やはり滑降時のスピード感。今では私の生きがいになっています。
競技には、旗門の間隔が異なる二つの種目があります。PSL(パラレル回転)は、旗門の間隔が10~14メートルと狭く、正確にターンを刻まないと転んだり失速したりします。一方、PGS(パラレル大回転)は旗門の間隔がPSLのほぼ倍あって高速ターンとなり、いかに体力とスピードを保つかが大事になってきます。
目標は、19年に開かれる次の冬季デフリンピックでメダルを獲得することです。色は何色でも、とにかくメダルをとりたい。
15年にロシア・ハンティマンシースクで開催された前回の冬季デフリンピックでは、PGS4位、PSL6位と、あと一歩のところでメダルを逃しました。特にPGSは、転倒さえしなければメダルをとれていたので、本当に悔しかった。
実は、前回のデフリンピック後に引退するつもりでした。結婚してから大会までの2年間、競技中心の生活だったので、今度は家庭を優先しようと思って。でも、このまま引退したら一生後悔すると思い、現役続行を決めました。あれから2年間、必死に練習し、結果を出してきました。これからの2年間も一生懸命練習を続けていけば、メダルを取る自信があります。
Q.困難に直面し乗り越えた経験は?
16年春、トレーニング中に転倒し、右ひざの前十字靱帯(じんたい)を損傷しました。靭帯の再建手術を受けてリハビリを重ね、約7カ月後に競技に復帰しましたが、手術で感覚が変わってしまい、前のようにうまく滑ることができなくなりました。滑りを録画して確認し、フォームを変えるなどして猛練習した結果、徐々に以前のように滑れるようになりました。
メダルを目指してトレーニングに励む中での負傷、しかも前十字靱帯損傷というけががここまで辛いものだとは思いませんでした。でも、落ち込んだりはしませんでした。手術してリハビリを一生懸命やれば、必ず復帰できると信じていました。
Q.デフリンピックの大会の様子を教えてください。
ご存じない方も多いですよね。今年は夏季デフリンピックがトルコ・サムスンで開催されます。競技内容はオリンピックとほぼ変わりませんが、選手は耳が聞こえないので、スタートの合図を音ではなくランプの光でするといった点が異なります。
皆さんは聴覚障害者の拍手を聞いたこと、見たことがありますか? 私たちは普通の拍手を聞くことができないため、両手を上げて手のひらをヒラヒラと振ることで拍手を表します。それが私たちの「音」なのです。
一般の競技とは少し違うところもあるかもしれません。でもそういった違いを含め、たくさんの方にデフリンピックについて知ってもらい、少しでも興味を持ってもらえたらうれしいです。
Q.読者の皆さんへメッセージをお願いします
私は耳が聞こえませんが、それを不便に感じたことはあっても、嫌だと思ったことは今までありません。健常者の大会にも出場しますが、耳が聞こえないことを競技上不利に感じたこともありません。やろうと思えば、どんなことでもできると思っています。
シーズンオフの今は、体力作りや体の調整などのトレーニングをしています。来シーズン、いい結果を出せるように頑張りますので、応援よろしくお願いします。
星 奈々選手NANA HOSHI
●1980年12月22日生
●福島県南会津町出身
福島県郡山市在住●先天性聴覚障害
●・第18回冬季デフリンピック PGS4位 PSL6位
・JSBA全日本スノーボード選手権大会東北地区予選 GS準優勝 DU優勝
・JSBA全日本スノーボード選手権大会 DU14位
・第2回デフスノーボード世界選手権大会 PGS5位 PSL7位