SUNTORY CHALLENGED SPORTS PROJECT

#30 「孤独な競技クラス。でも仲間がいる。だから頑張れる」

#30 「孤独な競技クラス。でも仲間がいる。だから頑張れる」

陸上競技(100m) 庭瀬 ひかり選手

Q.競技との出会いは?

生まれつき全身の関節が脱臼、変形していて車椅子で生活していますが、子どもの頃から車椅子で走るのが大好き。中学で養護学校に入学すると、休み時間に学校中をびゅんびゅん走り回っては「暴走族」と呼ばれていました(笑)。そうしたら体育の先生に「郡山シティマラソンに障がい者枠があるから出ない?」と声をかけてもらい、2年生のときに2キロのクラスに出場。いきなり2位に入って味をしめました。
同級生にはスラロームで国体(全国障害者スポーツ大会)に出場している電動車椅子の男の子がいました。負けず嫌いなので私も出たい!と思い、同じくスラロームをやることに。高校の3年間は国体に出て、日本記録も出しました。
一時はそれで満足していたのですが、競技をやっていく中で世界大会に出場している人と仲良くなり、世界をめざしたくなりました。でもスラロームには国体以上の大会がない。そんなときに、中古のレーサー(競技用車椅子)を譲ってもらえることになったんです。
レーサーは過去に試しに乗らせてもらう機会がありましたが、正座のような形で乗るのが基本で、ひざが90度以上曲がらない自分には無理だと当時は諦めていました。でも、実は、足を前に下ろしてベルトで固定して乗ることもあるんです。「乗れないんだったら、乗れるようにすればいいんだよ」といろんな人に言われて、レーサーに改良を加えるなど試行錯誤の末、どうにかこげる体勢に持っていくことができました。
私の障がいに該当するT51というクラスで100mの日本選手権に出場してみたら、日本記録が出ました。

Q.困難に直面し乗り越えた経験は?

女子のT51クラスで100mをやっている選手は、国内では私しかいません。そのため、順位ではなく自己記録の更新を目標にしていますが、昨年は伸び悩みました。
新しいレーサーを自分の体に合わせて作ってもらうことになったことも原因の一つではあります。理学療法士らのサポートを受けて、記録を比較しつつ調整を重ねた1年間だったので、こぐポジションが安定しませんでした。
ただ、私は感情が態度に出やすくて、怒られるとすぐしゅんとなったり、言われたことに腹が立つと反発して言い返してしまったりすることがあります。そうしたメンタル面の弱さも記録に影響しているとコーチに指摘されました。感情の浮き沈みを抑え、大会に向けて体調と気持ちのピークを持っていくことが私の課題で、今も意識的に努力しているところです。

Q.競技を通して得たものは?

トレーニングをする中で、腹筋や背筋、肩甲骨など、自分が分かっていなかった体のいろんな機能を使えるようになりました。私は腕が完全に伸ばせないので、とくに体幹が重要なんです。レーサーをこぐときには腕だけに負担がかからないよう腹筋を使って体全体であおっていくし、前に倒した上体を起こすには背筋の力も必要です。最初はコーチに言われるままに体を動かしていただけだったのが、「肩甲骨を動かすってこういうことか」みたいに実感できる瞬間があって、その成果が記録にも表れ始めるとすごく楽しいです。
ライバルが欲しいし、孤独な種目だなと思うこともありますが、周りには陸上を通して出会った仲間がたくさんいます。種目やクラスは違えど、一緒に頑張る選手、活を入れてくれる人、手伝ってくれる人がいる。つらくてやめたくなることもありましたが、そういう人たちとの交流が楽しいし、たくさん刺激をもらえることが続ける力になっています。

Q.今後の夢、目標は?

近いところでは、5月6日に行われる「大分パラ陸上」に出場します。もうすぐ完成したレーサーが届くので、それに乗って練習できるのが待ち遠しいです。色はお気に入りの赤。テンションが上がります。
今の私の記録は32秒台ですが、世界大会をめざすためには25秒台に持って行く必要があります。まだ遠いですが、初めて大会に出た時から約1年で5秒縮まりました。まずは30秒を切ることを目標に、少しずつ近づいていけたらと思います。

Q.読者のみなさんへメッセージをお願いします!

私のモットーは、とりあえず何でもやってみることです。私のような症例で体幹を使った競技ができるのは珍しいそうで、詳しい人からは「すごいよね」と言われたりします。そんなふうに私に可能性を感じてくれる人や、応援してくれる人の期待に応えたいと思って頑張っています。
まだまだ知名度が低い競技だと思うので、少しでも多くの人に知ってもらえたらうれしいです。

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庭瀬 ひかり選手HIKARI NIWASE

  • ●1993年12月16日生

  • ●福島県須賀川市出身/福島県須賀川市在住

  • ●多関節脱臼症(ラーセン症候群)

  • ●中学生の時の体育の授業で走るのが楽しいことに気づき、地域のマラソン大会に出場したことがきっかけで陸上を始める。中学3年生の時、同級生が国体の福島県代表選手に選ばれ、「負けたくない」と思い、代表選手になることを目指し、陸上大会に出場。

  • ●高校1年~3年生までスラロームで福島県代表選手として国体に出場。
    20歳の頃、レーサーに乗り、100mに競技種目を変更。
    翌年、日本選手権にて、T51クラスの100mで日本記録を更新。

  • ●第27回日本パラ陸上競技選手権大会 1位
    第54回福島県障がい者総合体育大会 1位
    2016ジャパンパラ陸上競技選手権大会 1位
    第21回関東パラ陸上競技選手権大会 1位
    2016北海道・東北陸上競技選手権 1位

PASSION FOR CHALLENGE
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