SUNTORY CHALLENGED SPORTS PROJECT

#27 「自分を熱くさせる夢があるから、壁を乗り越えられる」

#27 「自分を熱くさせる夢があるから、壁を乗り越えられる」

車椅子バスケットボール 永田 裕幸選手

Q.競技との出会いは?

 23歳の時、スノーボードで転倒して、胸椎の11番と12番を圧迫骨折して車椅子生活になりました。病院を退院後、国立障害者リハビリテーションセンター(埼玉県所沢市)に移り、そこで車椅子バスケットを始めたのですが、最初はただボールを放るだけ。面白さは感じませんでした。
ところがある日、センターの体育館に現在の所属チーム・埼玉ライオンズが練習に来ると聞いて見学に行くと、全然違いました。選手のスピード、シュートの精度、車椅子同士のぶつかり合い。その迫力に、「これはスポーツだ」って思った。その後、森田俊光ヘッドコーチに誘われて入団しました。

Q.困難に直面し乗り越えた経験は?

 チームに入ったものの、バスケのルールはよく知りません。競技用の車椅子のことを僕らは「バスケ車」と呼びますが、これも初めはうまくコントロールできない。子どもの頃からずっと野球をやっていて、自分は運動が得意な方だと思っていただけに、すごく悔しかったですね。野球やってた頃も試合に負けて悔しいことはあったけど、それとはまた違う、「動けない悔しさ」でした。毎日バスケ車に乗って、走り込んで動き回って、慣れていくしかなかった。
 次第に動けるようになると、今度は「車椅子バスケで日本代表になりたい」と思うようになりました。それがかなうと次は「パラリンピックに出たい。大舞台で結果を残したい」と目標がどんどん大きくなった。これほど自分を熱くさせる夢は初めてでした。夢があったから、いろんな壁を乗り越えられたんだと思います。
 「やってやろう」という気持ちになるのは、ライバルの存在も大きい。僕の持ち点(障がいの程度によって選手ごとに与えられる点数)は比較的重い「2.0」ですが、同じ2.0の選手には埼玉ライオンズのチームメートでアウトサイドのシュートが強い藤澤潔、ドライブで切り込むのが得意な鳥海連志(佐世保WBC)、日本一ディフェンスが強いと言われる豊島英(宮城MAX)ら、すごいプレーヤーがたくさんいます。試合で対戦する時も、日本代表で一緒にプレーする時も、常に「負けたくない」って意識しています。

Q.挑戦の中で大切にしていることは?

 いつも心に刻んでいるのは「上には上がある」ということです。だから、バスケ車に乗る時間を増やそうと、他チームの練習に交ぜてもらうこともあります。
 体育館が空いていない時は、入院していたリハビリセンターにある、80メートル続く上り坂をバスケ車で走り込みます。30本から40本、1時間ぐらいかけて。ライバルたちもやっていることなので、「俺ももっとやらなきゃ駄目だ」って。一つの勝負に勝っても、「まだ次」と、今の自分で満足できないでいます。

Q.夢、目標は?

 2020年の東京パラリンピックしか考えていません。その時には36歳になります。日本代表に選ばれていれば年長クラス。ぜひ選ばれて、試合で自分の強みを生かしたい。ハイポインター(持ち点3.0以上の障がいの程度が比較的軽い選手。一般的に、多く得点するといわれる)を生かす黒衣的な役割をしつつ、ローポインターの自分もゴールにからみたい。
 僕はハイポインターのような腰の自由が利かないので、ボールで手がふさがるとバスケ車をコントロールしづらい。そういう時はひじをタイヤに当てて車椅子を方向転換します。そうやって相手ディフェンスをかわし、シュートチャンスを増やしていきます。
 相手の手の位置、目線、ターンするときのボールの持ち方などの癖を読むのが得意なので、ポーク(poke)というプレーも強みです。「つつく」という意味で、攻めてくる相手のボールをつついて攻撃を遅らせます。日本代表の及川晋平ヘッドコーチからも「その強みはどんどん生かしなさい」と言われています。ポークがうまくいけば、マイボールにしてそのまま速攻もできる。自分のプレーで試合の流れを変えていくのが理想です。

Q.読者の皆さんへメッセージをお願いします!

 ぜひ、試合を見に足を運んでください。映像では見られない車椅子バスケならではのプレーを楽しんでもらえると思います。埼玉ライオンズも日本代表も、スピードあるプレー、切り替えの速いバスケを目指しています。体育館で体感してほしいですね。

a-56_pf.jpg

永田 裕幸選手HIROYUKI NAGATA

  • ●埼玉ライオンズ

  • ●1984年6月25日生まれ

  • ●鹿児島県出身、埼玉県在住

  • ●持ち点2.0

  • ●日本代表歴 2015IWBFアジアオセアニアチャンピオンシップ千葉、2014年世界選手権、2014年アジアパラ競技大会

PASSION FOR CHALLENGE
PASSION FOR CHALLENGE