SUNTORY CHALLENGED SPORTS PROJECT

#24 「私は市民ランナー。でも、レースに出る限りは負けたくない」

#24 「私は市民ランナー。でも、レースに出る限りは負けたくない」

車いすマラソン 小山 敏光選手

「サントリーチャレンジド・アスリート奨励金」第1期対象選手

Q.競技との出会いは?

2006年12月に高所から転落し、下半身にまひが残って車椅子の生活になりました。事故から約7カ月間入院しましたが、そこで車いすマラソンをしている方と同じ病室になったのが始まりです。彼に誘われて「宮城車椅子マラソンクラブ」の練習を見学し、レーサー(競技用車いす)で走るスピード感にひかれました。退院後しばらくは車椅子での生活に慣れるのに精いっぱいで、マラソンの練習を始めたのは09年の冬。初めて出場した大会は、翌10年2月に京都市で開かれた全国車いす駅伝競走です。クラブの仲間とは車椅子生活の苦労を分かち合ったり、情報交換をしたり、練習時間と同じくらい語り合ったりしている。そんな関係が心地良いですね。

Q.挑戦の中で大切にしていることは?

攻めの姿勢を貫くことです。クラブの中で速く走れるようになると、つい仲間のペースに合わせて練習しがちになりました。当然、それでは大会本番でタイムが伸びない。これじゃだめだと、練習の段階から自分を追い込むように努めました。攻め続けることとは、つまり、我慢を重ねること。つらい坂道では、心が折れる瞬間を少しでも先延ばしさせようって気持ちで走っています。
一方で技術面を磨くことも大事。いかにリズムよく疲れずに漕ぎ続けられるか研究し、ここ2年ほどでやっと「いい感じの漕ぎ方」が分かってきました。
私は仕事をしながら週末に練習や大会に励む、いわば市民ランナーですが、レースに出る限りは「負けたくない」という気持ちで走っています。

Q.東日本大震災の時はどのように過ごされていましたか?

実は2010年夏ごろからマラソンを休んだ時期があって、その時に震災がありました。私は宮城県南三陸町在住です。しばらくは車椅子で移動すること自体が難しい状況。生活するのがやっとで、マラソンができるような環境ではありませんでした。
 仲間の後押しもあって、練習を再開したのは12年夏でした。その年、大分国際車いすマラソン大会に初出場すると、これがとても楽しい。たくさんの選手と一緒に走れるし、トップ選手たちの巧みなレース運びにも刺激を受けた。以後は全国各地の大会に積極的に参加するようになりました。
 昨年の熊本地震で被害の大きかった熊本県益城町の方とも知り合いました。お互い車椅子で、被災したという境遇。つながりを感じながら、交流を深めています。

Q.夢、目標は?

やっぱり、車いすマラソンに挑戦する人が増えてほしいですね。そのためには、レーサーを準備する経済的な支援や、練習をサポートしてくれる体制などが充実していればと思います。私も競技者として、機会があれば積極的に自らの経験を伝えるようにしています。
 個人的な目標は、13年に大分国際車いすマラソン大会で記録した、ハーフマラソンの自己ベストを更新すること。仙台国際ハーフマラソン大会の車いすの部では一昨年、昨年と9位だったので、入賞の8位以上を目指しています。

Q.読者のみなさんへメッセージをお願いします!

 車いすマラソンの魅力は、まずスピード。下り坂では時速約60キロで走ることもあるんですよ。近くで見ていただければ迫力が伝わるはずです。
 選手としては、風を切って走る爽快感や、完走したときの達成感を味わえます。レース中は年齢も性別も関係ない。ハンドリングの技術やレース運びの駆け引きなど、いろんな要素が勝負を決めますから。私は、60代のベテランや細い腕の女性に追い抜かれて、何度も悔しい経験をしました。同時に、自分にはまだまだ伸びしろがあるとも思います。車椅子スポーツを何か始めたいと思っている方は、ぜひマラソンに挑戦してほしいですね。

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小山 敏光選手TOSHIMITSU OYAMA

「サントリーチャレンジド・アスリート奨励金」第1期対象選手

  • ●1971年11月21日生まれ

  • ●宮城県南三陸町出身・在住

  • ●2006年12月に高所から落下して下半身麻痺になり、車椅子生活となる。胸椎12番と腰椎1番の脱臼骨折脊髄損傷により、おへその下あたりからの感覚がない。

  • ●怪我をして長期入院中に「自分も何かスポーツはしたいな」と思っていたところ、当時、車いすマラソンのトップクラスの選手がたまたま同部屋に入院してきたことを機に競技を開始。

  • ●郡山シティーマラソン大会(5km)2年連続1位(2015・2016)

  • ●仙台国際ハーフマラソン大会(ハーフ)1時間00分56秒 9位(2016)

  • ●あおもりマラソン大会(10km)2年連続1位(2015・2016)

  • ●車椅子生活になる前から車とバイクが好きで、現在も車2台とバイク複数台を所有。バイクは大型免許を持っていたが免許更新の時に無くしたくないとの思いから、サイドカーを免許センターに持ち込み、実際にコースを運転して、条件付きで大型自動二輪免許も更新(宮城県では初の事例)。
    そのほかにも、ネットショッピングや釣りが好きで、休みの日には近くの防波堤によく釣りに行く。

PASSION FOR CHALLENGE
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