CULTURE
23.12.15
2024年で42回目の開催となった、『サントリー1万人の第九』。サントリーは40年にわたり、会社を挙げてこの公演を支えてきました。世代を超え、国境を越え、『第九』の合唱で「フロイデ(歓び)」の思いを広げ続けてきたサントリーが、この取り組みにかける思いとは――。
ベートーヴェン『交響曲第9番』、通称「第九」。12月になると各地で演奏会が行われ、日本の師走の風物詩ともなっています。なかでも、総監督・指揮を務める佐渡裕氏と1万人の合唱団が一堂に会するという、世界最大規模の演奏会が『サントリー1万人の第九』です。
提供:MBS
2024年で42回目となる同公演が初めて開催されたのは、1983年。大阪城ホール(大阪城国際文化スポーツホール)のオープニングを彩る「こけら落とし」として企画されました。誰も試みたことのなかった音楽史上最大の演奏会を「おもろい企画や、やってみなはれ」と後押ししたのは、当時のサントリー社長・佐治敬三氏。それ以降、大阪にルーツを持つサントリーがスポンサーとなり、大阪発の文化事業として40年にわたり続けられてきました。
同事業を担当するサントリーホールディングス株式会社CSR推進部の青木瑞穂さん(写真・下)は、『サントリー1万人の第九』の意義について、こう語ります。
「サントリーが行っている文化事業の根底には、事業で得た利益を社会貢献に役立てたいという、『利益三分主義』の不変の価値観があります。『サントリー1万人の第九』は、東京に負けない文化の発信地である『大阪』で生まれた、市民文化としての音楽の祭典。
『1万人』という大規模な合唱には「やってみなはれ」のチャレンジ精神があり、生きる歓びが詰まった『第九』が持つ音楽の力がそこに加わります。『大阪』『1万人』『第九』という3本の柱がそろっているからこそ、同公演がこれほど長く愛され続けてきたのだと思いますね」
40年という歴史のなかで、「サントリー1万人の第九」はさまざまな困難に直面してきました。特に、1995年の阪神・淡路大震災の際は、コンサートの開催自体が危ぶまれたことも。しかし、「地元から元気を出していかなきゃいけない」という思いもあり、大阪城ホールと神戸会場の2元中継によるコンサートを実現しました。
2011年の東日本大震災の際には、サントリーの震災復興支援活動の一環として被災地の合唱団を大阪城ホールに招待。仙台会場に集まった現地の合唱団とも中継で結ばれ、鎮魂と復興の願いが込められた1万人の歌声は、多くの被災者の心を支えました。
そして、新型コロナウイルスが世界的に感染拡大した2020年。例年通りの開催は困難となりましたが、人と人との繋がりが失われそうになるなか、ここでも必要とされたのが『第九』の願いです。無観客公演や歌声動画の投稿、リモート合唱といったさまざまな試行錯誤のなかで『第九』が歌い継がれた3年を経て、今年ついに1万人の合唱団が4年ぶりに一堂に会します。
「第九」の歌詞には次のようなフレーズがあります。
Deine Zauber binden wieder,
Was die Mode streng geteilt
歓(よろこ)び お前の不思議な力は
時の流れが引き裂いていたものを再び結び合わせる
(訳:サントリー1万人の第九事務局)
「コロナ禍を乗り越え、再び会場で繋がり合うことができる今年の公演は、『第九』の歌詞に込められた思いと強く重なります。サントリーの企業理念に『人間の生命(いのち)の輝き』という言葉がありますが、震災にしても、コロナ禍にしても、どんな局面でも忘れてはいけない人との絆を体現しているのが『第九』の合唱なのかもしれません」(青木さん)
『サントリー1万人の第九』には小学生から80代を超えるシニア層まで、幅広いバックグラウンドを持つ人々が集まります。今年は大学生の合唱サークルや中学高校の合唱部といった団体参加も増え、25歳以下の若年層の参加人数は過去最多に。さらに、2023年は初めて47すべての都道府県から参加者がそろい、全国各地から『第九』を歌うために1万人が大阪に集まります。合唱団の募集は毎年5月頃から始まり、当選の結果の発表は7月。本番までの4か月の間、1回2時間の合唱レッスンを12回(経験者向けクラスは6回)、11月下旬に行われる「佐渡練」(佐渡裕総監督との合同練習)、そして公演前日の総合リハーサルに出席することが応募条件です。
大変なスケジュールですが、合唱未経験者や初めてドイツ語の『第九』の歌詞に触れる人にとっては、それでも時間が足りないほど。しかし、真剣に取り組んでこそ生まれる本番の感動はひとしおです。
東京都のRちゃん(8歳)は、お母さんと一緒に今年初めての参加。10月のレッスン会場では「1万人の合唱がどんなにすごいか想像もつかないし、緊張もするけど、すごく楽しみ!」と意気込みを聞かせてくれました。お母さんがドイツ語の歌詞にフリガナをつけ、少しずつ音で覚えていくという二人三脚の練習法で、本番に向けて猛特訓の毎日です。
2014年から東京クラスで合唱指導を行っている菅井寛太さん。「熱心にレッスンを受け、最終的には最高の合唱を披露される皆さんの真摯な姿に毎年勇気をもらっています。すべての人々が皆兄弟になるという『第九』の歌詞を表すような大合唱は、これこそがベートーヴェンが望んでいた在り方なのかもしれないと思いますし、これはもう、ひとつの文化だと感じますね」と語ります。
菅井さんとともに東京クラスで伴奏を受け持っている梶木良子さんは、レッスンの雰囲気について、こう振り返りました。「レッスンを重ねるごとに参加者さん同士にも絆と信頼が生まれていっているのがわかります。同じ目標のためにいろんな世代の人たちが集まり、そこで生まれる絆というのは本番が終わっても続いていて、そこに素晴らしい価値があると思いますね」
いよいよ訪れた2023年12月3日の本番公演当日。1万人の参加者と約3000人の観客が大阪城ホールに集い、ついに幕が上がりました。今年は、メインパーソナリティーの田中圭さん、アーティストゲストのEXILE TAKAHIROさんも登場し、会場を盛り上げます。
そして、休憩を挟み第2部がスタート。「第4楽章」の演奏が始まり、1万人の大合唱団が一斉に起立すると、「Freude(歓び)」の発声とともに、エネルギー溢れる合唱が会場中に響き渡りました。4か月のレッスンの日々、そしてその積み重ねである40年の歴史の重みが、1万人の歌声と重なり、会場を感動で包み込みます。
一般公募からの参加者であるAさんは「今年で7回目の参加ですが、毎回本番では何とも言えない感動が胸に迫ります。一度でも経験すると、もうやみつきになりますね。こんな感動はここでしか味わえないと思います」と晴れやかな笑顔を見せてくれました。
サントリー社員のNさんと、サントリーOGのEさん、Mさんも、1万人の合唱団の常連参加者。Nさんが「幅広い世代の参加者が創り上げる『第九』はまさに人間賛歌。『人と自然と響き合う』というサントリーの思いとピッタリですね」と語ると、Mさんは「たくさんの人がともに暮らす世界で、サントリーの社員もそうでない人も関係なく思いをひとつにできる素晴らしい機会です」と頷きます。Eさんは「私たちが今、歌い継いでいくことで、次の世代にも長く残していきたい」と、サントリーの企業風土を良く知る3人だからこその感想が飛び出しました。
演奏終了後の会場では、観客からも合唱団からも、盛大な拍手と「ブラボー」の大歓声が沸き上がりました。なかには感極まって涙ぐむ方や、抱き合ってお互いを称え合う姿も。この光景を前に、青木さんは今後の『サントリー1万人の第九』のさらなる広がりを確信しています。
「いつかは日本だけではなく、世界中の人々と繋がっていくことで、『サントリー“100万人”の第九』が実現できる日も夢じゃないと思えます。こういった文化事業で『人間の生命(いのち)の輝き』をお客様と一緒に実現できるのも、サントリーらしさなのかなと実感しています。
来年は『第九』が1824年にウィーンで初演されてから200年という節目の年。2025年は大阪万博の開催とも重なり、今後も『サントリー1万人の第九』がますます盛り上がっていくことは間違いありません。ぜひ1万人のひとりとして、多くの方に参加していただきたいですね。その『Freude(歓び)』の輪を広げていくことこそ、サントリーの使命だと感じますね」
MBS特別番組「サントリー1万人の第九~今伝えたいBIG LOVE」
日時:2024年12月14日(土)16:00~16:54
放送:MBS・TBS系列JNN28局全国ネット放送
WEB:MBS「サントリー1万人の第九」公式HP
YouTube:【公式】サントリー1万人の第九 チャンネル