SPORTS
23.10.27
大阪府箕面(みのお)市を本拠地とし、2020-21年、2021-22年シーズンにVリーグで二連覇を果たし、2023年には日本チーム勢初のアジア制覇を果たした名門男子バレーボールチーム「サントリーサンバーズ」──その活躍を“裏方”として、影ながらチームを支えるスタッフは、サントリーの社員だということをご存知でしょうか。Vリーグで輝かしい成績を残すサンバーズの強さの秘密とは。そして、いち企業であるサントリーがスポーツチームを運営する意義とは──。
SUNTORYの「SUN」の3文字をなぞり、「燦然と輝く太陽に向かって羽ばたく、不死鳥のように」という想いを込めて命名された「サントリーサンバーズ(以下、サンバーズ)」は、1973年に「サントリー男子バレーボール部」として誕生し、今年で50周年を迎えるチームです。
太陽鳥をモチーフにした「サントリーサンバーズ」のロゴ
Vリーグ(※1)が発足した1994-95年シーズンには悲願の初優勝を果たし、1999-00年から2003-04年シーズンは前人未到の5連覇を達成。2020-21年、2021-22年シーズンにもリーグ連覇と圧倒的な実績とともに、リーグの振興にも多大なる貢献を成してきました。
そして、ここまでの輝かしい健闘の歴史には、選手たちだけではなく、その裏で彼らに最高の環境を提供し続けているチームスタッフの努力が欠かせません。
※1:Vリーグ/現在の社会人バレーボールの1部リーグ・V.LEAGUEの前身。アマチュアや実業団のリーグを経て、プロリーグ化を目指す現在のV.LEAGUEは、2018年に発足。1?3部リーグ(DIVISION1?3)の3リーグからなり、DIVISION1には男子10チーム、女子12チームが所属。
サントリー社員としてチームを支える高橋賢さん、加藤久典さん、秋本浩樹さん(左から)
現在、Vリーグ DIVISION1に所属する「サンバーズ」は、選手以外に16名の社員と、ドクターなど24名の専門職系のスタッフ(非社員)からなり、「強化」「運営・ファン事業」「地域連携・パートナー事業」と3つの部署で組織されています。
サンバーズは、母体である「サントリー」から分社化せず、スポーツ事業推進部として、多くの「正社員」がチーム運営に関わっています。
昨今のスポーツ界は、野球やサッカーだけでなく、バスケットボールなども選手も含めて「プロ化」が進んでいますが、Vリーグの多くのチームはプロ選手と社員選手が混在しており、こうした状況は選手だけでなく、コーチやドクター、栄養士などのスタッフも同様で、雇用形態も異なります。
それはサンバーズも同様で、輝かしい成績の影にはチームを支える社員たちの存在があります。では、どうしていち企業であるサントリーがスポーツチームを運営しているのか。その答えには、サントリーとしての企業理念が通底しています。
「強化」グループは、監督以外にコーチやチームドクター、メンタルコーチ、通訳などで構成されています。そのなかでも選手とチームスタッフの橋渡し的存在である「チームマネージャー」には、「GM」や「監督」と並んで正社員が就いています。
約6年間、サンバーズの現役選手として活躍し、引退後、チームマネージャーとしてチームに戻ってきた加藤久典さんは、転身当初の苦労をこう話します。
現役時代の加藤さん。サンバーズには大学卒業後、2017年に入団。引退後、2022年からチームマネージャーに就任
「選手時代とはまったく異なるスキル、しかも本来は自分が苦手な細かい事務作業を必要とされるので、最初は右往左往するばかり…つい最近まではチームの公式Instagramの運用も私がやっていましたが、そのような作業も初体験でした。
失敗談も数えきれませんね(苦笑)。試合会場の近くで別のイベントが開催されていて、車が混雑し、選手を乗せたバスが試合までに到着できなかったり…。今でも、なにかクレームが入るたびに落ち込んだりしますが、チームが勝ってくれたら、その辛い気持ちも一気に報われますね」
選手のパフォーマンスや技術面には一切携わらない。あくまで事務的な面でのマネージメントに徹することを心がけている、と加藤さん。
「私は現役を引退したばかりなので、選手の気持ちもスタッフの気持ちも両方理解できることを最大限に活かしたい。ただ、もう選手ではないので、とにかく選手が一番やりやすいよう、会場でもっともスポットを浴びるためのお手伝いをする──自分が表に立つような行為は絶対にしてはいけないと肝に銘じています」
チームマネージャーとして選手を撮影してSNSに投稿する加藤さん
「運営・ファン事業」グループは、試合を開催するためのバックアップを中心に請け負っています。チームマネージャー・加藤さんが決めた試合の入り時間から逆算して、試合会場での催しの準備や、観客の入り時間の調整、試合進行のタイムスケジュール、あるいはチケットの手配・配席や広報活動などを企画するのも同グループの管轄です。
今年7月まで「運営・ファン事業」グループに所属していた、かつてはサンバーズ選手でもある高橋賢さんは、「現役時代のスタンスに執着しすぎないこと」を常に心がけていると言います。
「以前は選手としてバレーボールに関わっていたので、今の仕事にも愛着が強く、コミットしやすいのはたしかです。ただ、私のようにバレーボールの世界にどっぷり浸かってない人の意見のほうが、逆に新鮮だったり、お客様の感覚に近いのではないか…と思うことがよくあるんです。
試合前の会場では、来場者の方々に楽しんでいただけるようにキッチンカーなども準備するんですが、以前、同僚が試合会場に『動物園』を呼んだことがあったんです。その発想は僕にはありませんでした(笑)。
ほかにも、『試合の開始時間が15時だと、お子さんのいる家庭は行きづらい』など、元選手の立場からよりよい試合環境をつくることも重要ですが、来場いただいた方々にどうやって楽しんでいただくか、どう快適に過ごしていただくか──ファンや関係者、そのほかのスポーツ興行などにも極力耳を傾けるように努めています」
加藤さんとは選手時代に先輩後輩の間柄。今ではグループは違えどともにチームを支えるパートナーとしてタッグを組んでいる
チームのスポンサー営業を主に行っているのが「地域連携・パートナー事業」グループです。そのほかにも業務内容は多岐にわたり、スポンサー企業や地域の学校、行政機関を訪問し、サンバーズ関連の企画やイベントの提案なども重要な仕事です。
前出の2人とは異なり、都内の飲食店営業職から同グループに異動してきた秋本浩樹さんは、「スポーツ興行」という業種の特殊性を以下のように分析します。
2021-22年シーズン優勝時の様子。チームスタッフの活躍あってこその成しえた2連覇
「サントリーの営業は、居酒屋さんなどの飲食店や、酒屋さんなどの小売、卸しさんが主な営業先です。それが店舗から企業や行政機関に変わっただけで、大きくは変わらないのかもしれませんが、従来の営業のように決められた商品を営業先に売り込んだり、前任者から引き継いだりするのではなく、それこそ『試合会場に動物園を呼び寄せる』ぐらいの発想が必要です。
前例のないなか資料もなく、長い営業の伝統があるわけではないので、今は他のチームにヒアリングに行ったり──勉強の毎日です」
営業時代に先輩から教えてもらったのは「お酒を通じて町の色を変える」というビジョン。そして今秋本さんが向き合っているのは地域に根ざしたチームづくりで「スポーツを通じて街の色を変える」こと。自身も大学までアメリカンフットボール選手として活躍し、今でもこうしてスポーツに関われることにやりがいを感じているそうです。
企業理念としてサントリーの価値観を表す言葉「やってみなはれ」。サントリー社内では慣れ親しまれた言葉ですが、ビジネスシーンだけではなくスポーツチームにおいても同じであり、それはサントリーがスポーツチームを運営する意義でもあるのだと、高橋さんは言います。
「実際に応援に行ける、目に見える形の『やってみなはれ』の体現者たちが『サントリーサンバーズ』なのではないでしょうか。選手もチームスタッフも、社員・非社員に関わらず『やってみなはれ』というサントリーの価値観を体現して、1試合、1プレーに懸けています。
そして、世界レベルの選手が大阪・箕面(みのお)の地に集結し、その選手たちのプレーを介して『やってみなはれ精神』が伝播し、スポーツチームとして地域貢献ともつながっていくことが理想です。
そんな一流の選手たちが社内でともに働いているという事実も社員の活力・刺激にもなっていると思っています。存在意義は、やはり『やってみなはれ』の体現──それに尽きると思います」
スポンサーのひとつである、マッサージ器具の紹介を身長218cmの主砲、ドミトリーム・セルスキー選手に行う秋本さん
そんな「やってみなはれ」の体現者たちの背中を押すように、バレーボール界にも大きな変革が訪れています。
現在、大阪には北部の北摂(ほくせつ)エリアに「サントリーサンバーズ」、枚方市には「パナソニックパンサーズ」、南の地区には「堺ブレイザーズ」と、大阪だけで3チームがVリーグに所属しています。そして、この3チームで縄張り争いをするのではなく、「みんなで大阪からバレーボールを盛り上げよう」「大阪=バレーボールの町」を目指し、各チームスタッフ同士の交流会も行われています。
そして、2024年の秋には日本バレーボール界の本格的なプロリーグ化に展開する「SVリーグ」(※2)が始動。これまでのVリーグは「プロチーム」「実業団からプロを目指しているチーム」、そして「実業団として続けていきたいチーム」が混在していますが、Jリーグ(サッカー)やBリーグ(バスケットボール)のような盛り上がりがバレーボール界に訪れようとしています。
※2:SVリーグ/現行のリーグの上に新設予定の新リーグ。ホームとなる試合会場の収容観客数や売上高などが規定され、競技力だけではなく事業力なども踏まえて、基準をクリアしたクラブのみが加盟できる。男女とも最大16チームを想定。
グッズの売上や収益化もチームにとっては大事な要素。今年のチームスローガンは「PLAY HARD」
「『サントリーサンバーズ』にとっても次のステージにステップアップできる大きなチャンスだと考えています。そのためにはファンのみなさんの力が不可欠ですし、我々は裏方も含めて会場では、来場者全員に楽しんでいただけるような試合もコンテンツも用意しています」と秋本さん。
「あとは、バレーボールだけでなく、お酒も飲料も試合会場でたっぷりと楽しめるのが我々サントリーが持つチームの強みだと思います。試合会場で我々チーム一同の『やってみなはれ』を体感していただき、会場でバレーボールを見ながら飲むプレモルは最高ですよ(笑)!」
試合会場では、選手の顔がプリントされた「ザ・プレミアム・モルツ」の神泡も
選手の応援はもちろん、サントリーサンバーズを影で支える3人の挑戦を試合会場へ観に来ませんか? サンバーズのホームゲーム情報、チケット販売については 公式HPをご覧下さい。