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2025.03.19

サントリー“君は未知数”基金2024採択団体訪問記/人と話さず静かに過ごせる思春期世代の家のような場所。「3keys」が追究する思春期に必要な居場所のあり方

スリーキーズの代表理事、森山誉恵さんと田中泰英さん

すべての子どもには、生まれ育つ環境にかかわらず健やかに成長する権利があります。そのために医療や教育、生活への支援を受けることも、子どもの持つ権利です。ところが日本では家庭環境により子どもが受けられる教育や愛情に格差が生じており、虐待や貧困、いじめ、性被害など、困難な状況を抱える子どもたちがいます。「サントリー“君は未知数”基金」2024年採択団体のひとつである認定NPO法人3keys(スリーキーズ)は、すべての子どもの権利が保障される社会を目指して創立。行政では制度化・予算化されにくい10代の子どもの課題解決に向け、子どもを取り巻く現状のリサーチや啓発、子どものためのセーフティーネットづくり、情報発信などに取り組んでいます。同法人の代表理事・森山誉恵さんと田中泰英さんに、活動や組織運営について伺いました。

大人都合の支援ではなく子どもが求めるサポートを

2011年にNPO法人を設立した3keysの活動は、それ以前から任意団体として行っていた、児童養護施設に保護(措置)された子どもへの学習支援が出発点でした。勉強を教える大学生は支援対象と年齢が近く、貧困や虐待など困難な環境に置かれた子どもが、大人や社会に対する本音を吐き出す場面が多々ありました。
「大人はいい顔をして近づいて、自分の欲求が満たされればいなくなる」「『なんでも相談して』といいながら、都合のいいときしか助けない」など、大人には言えない気持ちを抱えた子どもたちと接してきた森山さんは、当時の子どもたちの声が「3keysの骨格になっている」といいます。

「本来子どもたちを助けるための制度であるはずが、実際には子どもたちは大人との関わりの中ですごく傷ついているように見えました。それは本当に心に刻まれた体験でした。だからこそ私たちは、子どもの視点を大事にしたい。大人にとって無理のない範囲で設計することはもちろん大事ですが、まずは子どもの権利や、子どもの発達等の観点からもっと逆算された支援や制度は何かということを念頭に、組織として活動しています」

認定NPO法人3keysの代表理事、森山誉恵さん

そもそも身近に頼るべき大人がいない環境で孤立し、助けを求められない子どもは、行政支援や、地域支援につながることもできません。NPO法人となった3keysは、そんな子どもたちのプラットフォームとして、10代向け支援サービス検索・相談サイト「Mex(ミークス)」を2016年に立ち上げました。

「ほとんどの子どもは、支援機関は警察と児童相談所、または学校内で周知された支援くらいしか知りません。しかし、警察や児童相談所は家を壊す存在だと思っていたり、友人などに自分の境遇を知られたくない子どもたちは学校内で周知されたものを使いたがらなかったりするケースは少なくありません。その時に、身近に頼れる大人がいない子どもが、自治体のサービスや民間の支援機関を調べて、その実態を見極めるというのはかなり難しいということを、児童養護施設の子どもたちを支援するなかで感じていました。また虐待などで本来の権利が保障されずに過ごしてきた子どもは、接する大人に警戒心を持っています。さまざまな背景を抱えた多くの子が、大人よりもインターネットを圧倒的に頼っているという現実があり、子どもがひとりで検索して本当に安全な場所を見つけられるよう、全国の支援機関の検索と相談のサイトとしてスタートしました」

Mexは、人と接すること自体にハードルを感じる10代の子どもの拠り所として、家族に話せない心身の相談などが多く寄せられ、コロナ禍のピーク時には利用者が200万人に達しました。サイトの運営を通じ、同法人では家に居場所のない子どものリアルな状況をキャッチしながら、10代の子どもとの接点や関わり方を模索し続けてきました。現在は「『困ったかも』を手助けする 『気になる』のヒントをみつける 10代のためのサイト」として、子どもがひとりで抱えがちな問題の解決やヒントになる記事・動画なども掲載しています。

ミークスの画面イメージ
小中学生にも使いやすくデザインされた「Mex」。悩みのカテゴリとエリアを選択すると、適した相談窓口や情報が検索される

10代の子どもが当たり前に得られる時間を過ごす場所

オンラインで顔の見えない子どものサポートをする一方、同法人では子どもたちにとって安全で安らぐ静的(非交流型)なサードプレイスとして、2021年にユースセンターを開設しました。10代に向けた居場所であること、またスタッフやほかの利用者(子どもたち)とのコミュニケーションを求められないことが、この施設の大きな特徴です。落ち着いた雰囲気のフロアにはソファーやクッションが置かれ、静かに休みたい子や人と関わる場所には行きづらい子などが訪れます。キッチンの冷蔵庫には調理師が栄養バランスを考えてつくった料理が用意され、利用者は必要に応じて食事や洗濯、シャワーなど、生活に必要な用を足すこともできます。好きな場所でごろごろしながらスマートフォンを眺めたり、漫画を読んだり食事をしたりと、「家にいるようにのんびり過ごす利用者が多い」と森山さんはいいます。

「いまの日本は少子化対策や子育て支援には力を入れていますが、10代に対する公的なサポートがとても手薄です。家族に頼れない子どもがいれば、本当に深刻な状況になる前に社会が支えるシステムが必要だと考えています。また10代は支援の仕方がとても難しい年齢層でもあります。本来思春期は自分で試行錯誤しながら成長していく時期なので、介入しすぎると自立を阻害したり、課題をより深刻にしてしまったりするリスクもあります。家族に頼れない子どもがチャレンジして失敗したり傷ついたりしたときに、安心して羽を休めてエネルギーを蓄えられる場所がとても大事だという前提で、非交流型・非プログラム型の居場所にしています」

ユースセンターのイメージイラスト

利用者である子どもは、SNSやインターネットで情報を得て同施設を訪れます。利用料は1回200円(食事などの追加費用なし。月最大600円で何回でも利用可能)。10代であっても安価で滞在できて食事も自由に摂れ、他人の目を気にせずのんびりできる。社会のサポートを受けたことのない子どもは、最初はその状況に警戒し、恐怖心を抱くこともあるといいます。

「本当は無料でもよいのですが、社会からのサポートを受ける権利があることを知らない、自分はなにも差し出さないのに無償でもらえるはずがない、という感覚を持っている子が多い世代だと感じます。自分が見てきた社会とこの場所のあり方にギャップがあるので、利用のハードルを下げるためにも1回200円という利用料を設定しています。それでも、「こんな場所があるはずない」「無料だとかえって遠慮して利用しづらい」と子どもたちが思っていることは多いです。本来家庭が当たり前に提供すべきものを提供しているので、これを当たり前に享受している子どもたちと、「親からもしてもらってないのに、こんなものを自分がもらっていいはずがない」と思っている子どもたちがいるというのが実情で、この場所やここの内容を信頼するのに時間が必要なことも少なくありません。もっとあちこちにこういう場所が増えていき、ある程度一般的にならないと、子どもの警戒心はなかなか解けないのではないかと思います」

子どもが必要なタイミングで職員が相談に応じたり、声をかけたりすることはあるものの、同法人では子どもにとって唯一かもしれない、他人の目を気にせずとにかく休めたり、何もしなくてもいていいという安心できる居場所としての関係性を維持することを最優先としています。専門家と連携しながらも、大人の思いを押し付けずに子どもの権利を保障すること。子どもの目線に立つことを忘れずに、家のように居心地よくいられる場所であること。場所の安全を守ること。10代の子どもを中心に据えた運営への思いは、気負わずにくつろげる部屋のつくりや用意された備品、自由に持ち帰ることができる支援品など、ユースセンターの随所に投影されています。

社会を動かし、10代の居場所を増やすために

オンラインとリアルな場で10代に向けてセーフティーネットを機能させ、より適切なサポートのために実態調査や啓発活動も行う同団体。組織運営をしていくうえでの課題は、「人材と資金」だと森山さんは話します。

「コロナ禍以降、在宅で働くスタイルが広がったこともあり、現場職を希望する人が一気に減りました。子どもや若者への支援に対して思いを持つ方は、ご自身が子育て中であることも多く、土日祝日や朝も夜も開いている現場で働くのが難しいという現状があります。そして職員になっても結婚や出産などライフステージの変化で続けられなくなる人もいるので、ある程度キャリアを積んで現場をマネジメントできる人材が本当に少なくなっています。これは私たちだけでなく、業界全体の課題だと思います」

また介入や相談、支援が前提である福祉の考え方と、当事者である子どもが求めるものが噛み合わないことも多く、特に思春期の発達段階ともミスマッチが生まれてしまうことも多々あります。同法人では職員が組織のあり方を体現できるよう、子どもへの関わりにおける考え方を言語化し、丁寧に研修を行っています。それでも関係性の構築や適切なサポートの提供が難しい思春期の子どもとの関わりにマッチする人材との出会いは少なく、経験から子どもとの程よい距離感を考え、子どもを尊重して関わることのできる人材が望まれています。

資金面では企業や個人からの寄付、そして行政や民間の助成金を年度ごとに調達しながら運営を続けてきました。毎年保障される資金がないなかで事業を運営していく現状について、森山さんはこう話しました。

「10代の居場所の運営は、小学生以前の子どもたちと比べて、地域の草の根的な支援では成り立たないことも少なくありません。10代は、自傷行為や非行などの問題行動を起こす力もある世代。職員に必要なトレーニングも、適切な距離を保つためのスペースや安全確保もとても大切で、必要な予算の規模が決して小さいものではありません。本来はひとつの事業者ががんばって運営していけるものではないと思っています。現状では行政の枠組みでできることではないため私たちが運営していますが、民間で続けられるのは莫大な寄付がない限り、せいぜいあと10年くらいではないかと感じています。その間にどれだけ社会を動かせるか。私たちはそこにチャレンジしている最中です」

同法人では「サントリー“君は未知数”基金」の対象事業として、これまでの10代に向けた居場所づくりを前提に、こども家庭庁や自治体に向けた調査、同時に、思春期世代の子どもの現状や居場所に求めるものについても調査を重ねてきました。その結果は専門家と共同分析し、データを可視化したものを行政や支援機関にフィードバックする予定です。

「簡単ではないですが、場所自体を増やすことがとても大事だと思っています。行き場をなくした子たちは繁華街に集まるような傾向があるので、たとえば都心部にこういった場所が複数あれば、安全な避難先を確保できる子も増えていきますし、困ったときに行き場があるという認知や安心感も増えていくと思います。私たちが運営してきた居場所を仮説として、調査した結果を研究機関とともに明示することで、より広くたくさんの方に10代の居場所づくりの必要性を伝えられるのではと期待しています」

3keysの田中泰英さん(左)と森山さん(右)

【認定NPO法人3keys】
東京都新宿区新宿1-12−5 Uni-works新宿御苑1F
https://3keys.jp