*本記事は、「ツクルゼ、ミライ!行動系ウェブマガジン【DRIVE!】」より転載したものです。
転載元記事:https://drive.media/posts/38118
すべての子どもたちが意欲や希望、夢を持ってチャレンジできる社会の実現をめざし、現場を担うNPO法人等(以下、NPO等)への資金的支援や人的支援のほか、課題解決の仕組みをつくる協働事業などを行うとしています。
同グループのCSR推進部では、子どもにまつわる社会課題に向き合い支援活動を続けるさまざまな現場に触れ、課題への理解を深めながら、「サントリーグループ」として取り組む子ども支援の意義や、活動を通して叶えたいことを模索してきました。
そんな次世代エンパワメント活動の一環として立ち上げられた、同じ課題意識を持つNPO等の成長・発展を支援する助成プログラム「サントリー“君は未知数”基金」(事務局NPO法人ETIC.(エティック))について、前編に続きサントリーホールディングスのCSR推進部長である一木典子さんと、同部の課長の村田佳幸さん、部長代理の小林章浩さんに伺いました。
>>【前編】複雑化する子ども・若者を取り巻く課題の解決を。企業だからこそできるサントリーの「次世代エンパワメント活動」
NPO等の成長と発展を後押しし、支援の輪を広げるきっかけに
——「サントリー“君は未知数”基金」の狙いを教えてください。
一木:子どもたちの支援の現場を担うNPO等には、子どもとの接点や子どもとの関わり方など、経験値がしっかりと蓄えられています。長く活動を続けている団体も増えており、それらはAIが発達した今の時代において、人にしかできないとても重要な活動です。
それでも団体の運営や活動の継続にはたくさんの課題があるのが現状です。原因のひとつとして、世の中が彼らに頼りすぎてしまっている面もあると感じています。行政だけではカバーしきれない領域を任せきりにするのではなく、企業も力を合わせ、人間にとって大事な営みを支えていくことが必要だと考えています。
NPO等は常に資金的にも人的にもリソースが十分とは言えない状態が続いています。何らかのサポートが必要な子どもや若者が増加しているにもかかわらず、支援の担い手である彼らの発展や成長のフェーズに応じたサポートの仕組みは圧倒的に足りていないのです。
子どもたちを支援する担い手を増やすためには、すでに一定の規模で活動しているNPO等との協働事業にとどまらず、ある程度のインパクトを視野に活動できる団体が育ち、増えていくためのサポートも重要です。もちろん私たちの取り組みだけでは十分ではありませんが、これをきっかけに世の中が課題に気づいたり、支援や協働をする仲間が増えたりすることにつなげていければと思っています。
村田:子ども支援の取り組みを通じてNPO等やそこに関わる方たちとつながる機会が多くなりましたが、どうしても首都圏中心で、大きな団体とのつながりが主です。しかし、次代を担う人たちが持続可能な活動基盤をつくり、広く成長・発展していける社会でなければいけません。また、次世代へバトンを渡せるようにもしておきたい。そうしたつながりをつくることも、サントリーグループが助成に取り組む大きな意義となっています。
現場に向き合うことから始まり、子ども起点で生み出す支援
——「“君は未知数”基金」で特に大事にしていることはなんでしょうか。
小林:こども家庭庁も「こどもまんなか」と宣言していますが、やはり大人が考えることを押し付けるのではなく、子どもを起点として考えることが大事かなと思います。あわせて子どもの課題解決には、そこに応答的に関わる大人の存在が重要です。
関わる大人をどのように増やし、育てていけるかということも大きな要素だと考えています。我々だけでできることは限られているので、基金を通じて出会った団体などと一緒に仕組みづくりもしていきたいです。
村田:子どもへの支援で一番大事なのは現場です。今回の基金で支援する団体については、現場にしっかり向き合っているということを重視しています。
一木:現場にすべての問いや課題解決のヒントがあるというのは、サントリーグループの信念でもあります。
——子どもを起点にすることを重要視するようになったきっかけなどはありますか?
一木:私は自分の子育ての経験から、子どもを起点に考えるということが意外とできないことを痛感していました。頭でわかったつもりでいても、実際はなかなか難しい。今回のプロジェクトでも、大人と子どもの視点や感覚の違いを痛感したエピソードがあります。プロジェクトのロゴをつくるにあたり、私たちメンバーが選んだデザイン案がありました。
そこでやはり対象となる子どもや若者が気に入るか、関わりを持ちたいと思ってもらえるものかが大事だという話になり、身近な子どもや若者たちにデザイン案をいくつか見てもらいました。すると私たちが一番と思っていたデザインを、子どもや若者たちはいいと思わないという意見でした。最終的に意見を聞いた子どもや若者が選んだデザインを採用しました。
大人がいいと思うものと子どもや若者がいいと思うものは違う。大人が子どものために良かれと思うことと、子ども自身が求めるもの、いいと思うものが違うという意識を忘れずに、当事者との対話から私たち自身が気づきながら、なにをするべきか考えていくことがすごく大事だなと改めて思いました。
——「君は未知数」というコピーに込めた思いを教えてください。
一木:今回のプロジェクトでは「君は未知数」という言葉にいくつかの思いを込めました。「君」というのは、目の前にいる人を想像し、その人に心を寄せたり対話をしたりするイメージです。同時にひとりの人間として尊重するという気持ちを込めています。「未知数」は、すべての人にはそれぞれが持つ、そして、まだ本人も周囲も気づいていないような未知なる可能性があるということ。
個々に着目した能力だけではなく、周りとの関係性によって発現することもあれば、関係性の中で本人が気づいていくこともあると思います。一人ひとりが自分自身を変化させながら、自分を取り巻く関係性を耕していける。そんなつながりを大切にしていきたいと考えています。
また、子どもの状態や関係に負担や不安を感じている保護者の方も、子どもや若者の可能性が未知数であると思えれば、少しは心が軽くなるのではないかという願いも込めています。一番身近な大人の不安が減ることは、子どもに大きな影響があると思います。
10代の若者の課題をすい上げ、支援の担い手を増やす
——次世代エンパワメント活動は広く子どもを対象にしたものですが、「サントリー“君は未知数”基金」は10代の子どもや若者を支援する事業・活動としています。ここにはどのような思いがあるのでしょうか。
一木:子どもに関わる課題も時代とともに変化してきています。「子どもの貧困」という言葉は2000年代から聞かれるようになり、2010年半ばで一定の認知が広がりました。そして今、不登校という課題も広がってきて、10代の子どもや若者たちを取り巻く困難の変化や兆しを捉える必要性がわかってきました。
まだその段階だからこそ、10代の子どもや若者に対する取り組みやその担い手が十分ではありません。そして行政だけでは迅速に対応しきれないので、そこに企業の力が必要だと感じています。
また、本活動のアドバイザーである総合地球環境学研究所 所長の山極壽一先生によると、ほかの生物にはない人間固有の時期が、離乳した直後の数年間と思春期の時期であり、その時期を種として命を守っていくために人間が生み出した知恵が、みんなでごはんを食べることと、みんなで子どもを育てることだということです。
どちらも今の社会では薄れていることですが、身体の発達と心の発達が完全に一致せず揺らぎやすい時期を、地域の中で乗り越えていたのだと思います。人間とはなにかということを考えさせられますし、人生のなかで10代の時期がどれだけ大切かを改めて感じます。こうしたことが10代の子ども・若者にフォーカスした理由です。
そして個人的な話になりますが、私は子育てをしながらキャリアを積んできました。それは上の世代の先輩方の大変な思いがあって、時代とともに子育てをしながら仕事が続けられる社会になっていたからできたことでもあります。その面ではすごく恵まれていたと思っていますが、その裏側で子どもを見守る環境が手薄になっていたということを、子どもたちから気づかされるのです。
課題の当事者としても、取り組みを通して今悩んでいる方々と思いを共有しながら、新しい未来の“あたりまえ”をつくる活動をしていく意義があると考えています。
——「“君は未知数”基金」は団体の成長・発展のための投資的な支援であることや、使途の制限がほぼないということも大きな特徴かと思います。その背景をお聞かせください。
一木:プロジェクトの立ち上げにあたり、20ほどのNPO等や現場に関わるさまざまな立場の方にインタビューさせていただきました。既存の助成金は、NPO等が支援している対象者にその大部分が還元されるように、使途に制約がある場合が多いことがわかりました。
ただ、それでは現状の活動の直接的な受益者を増やすことができても、事業規模に合わせて組織として発展するためのお金と時間の余裕は生まれません。実際に事業規模が1,000~5,000万円を超える日本のNPO法人は極端に少なくなっています。
成長フェーズに合わせ、しっかりと組織基盤を強化して飛躍する団体がこれからより多く必要とされます。だからこそ、その成長・発展に役立つ投資的な基金としました。この基金が子どもを支援するための組織力を高め、最終的に担い手も受益者も増えることにつながると考えています。
——具体的にどういった課題を持つNPOに応募してほしいですか?
一木:NPO等もベンチャーと同じく、軸となる事業を据えて団体を立ち上げ、取り組みを始めます。活動を続けるうちに、本質的な課題解決のために事業の領域を広げたり、人材を育てる必要が出てきたりするでしょう。
さらに人材を育てるために経験者の採用が必要だったり、または社員の負担軽減や成長に応えるための人材育成体制を強化したりという、一歩先のフェーズが必ず訪れます。そこに対して資金的援助が必要な団体などにはぜひ応募していただきたいです。
支援の現場に向き合う仲間と「新しいあたりまえ」の仕組みをつくりたい
——「“君は未知数”基金」のめざすものや、創設にあたり期待することを教えてください。
一木:今の社会にない「新しいあたりまえ」を、この助成プログラムでご縁をいただいた方たちと一緒につくっていきたいと思っています。本当に子ども起点で考える社会をつくることをめざします。
たとえば子どもに対して自立を急がせず、押し付けず、まずは面白いことに夢中になっていいと思える環境をつくったり、ひとりで乗り越えようとするだけではなく、仲間とつながって助け合っていいと思える関係性を築いたり。さらに支援の担い手であるNPO等やそこで働く方々が、社会からきちんと評価され、成長するために必要なリソースが社会から供給される。そんな新しいあたりまえの未来をめざし、人の幸せや地域のあり方をより良くしていけたらと思っています。
——最後に、この助成プログラムへの応募を検討している方にひと言お願いします。
村田:応募に際しては大いに夢を語っていただきたいです。現場をどのように大事にしているか、地域の特徴や、自分たちが地域にとってどのような存在かなどを理解している必要があります。そのうえで、志をぜひ聞かせていただきたいと思っています。
小林:子どもの課題に対する取り組みは、我々もまだまだ学んでいる最中で、把握できていない課題や取り組みもあると思います。今回の公募を通じて、そういったことも広く学ばせていただきたいです。ぜひご応募をお待ちしています。
一木:めざす社会のためになにをしたらいいか、正解はわからないけれどこれまでの経験から考え悩んできたのが現場のNPO等だと思います。ぜひそういった経験から、価値のある取り組みをご提案いただきたいです。成果は簡単に測れないかもしれませんが、意義のある活動に一緒にチャレンジできる基金でありたいですし、経験値があるからこそできる直感的なチャレンジもぜひ教えていただきたいです。