2025年1月
なぜ、そこまでやるのか。
千總とマスターズドリームが込めるものづくりへの情熱。


TOP RUNNER
なぜ、そこまでやるのか。
千總とマスターズドリームが
込めるものづくりへの情熱。
対談
株式会社千總
開発部
今井淳裕 (写真左)
×
サントリーホールディングス株式会社
デザインセンター
デザインディレクター
太田裕司(写真右)
大胆な構図で繊細な文様を染色し、金銀の箔や刺繍がほどこされた京友禅は、世界的に見ても最上級に手のこんだ、雅やかな衣裳と言えるだろう。
そして工程ごとに職人が異なり、10人以上のこまやかな手仕事のバトンリレーによってつくりあげられるのも特徴だ。
デザインディレクターとして、マスターズドリームなどザ・プレミアム・モルツブランドの商品デザインを担当する太田裕司が、今年で創業470年を迎える京友禅の老舗、千總を訪ね、日本のものづくりのスピリットとデザインが持つ奥深さを探った。

下絵の線に沿って置かれた糊(青い線)の中に色を挿す作業。
花びらや葉っぱなど、ごく小さなスペースに繊細なグラデーションが描かれていく
千總のものづくりにおける、伝統と革新とは
太田千總さんは室町時代の創業だそうですね。成り立ちを教えてください。
今井創業は1555年で、今年で470周年を迎えます。創業当時は、お寺の装束をつくる法衣(ほうえ)業が生業で、江戸時代には寺社の装束のほか、公家の装束もつくるようになりました。明治に入ると千總は主軸を友禅染めに移し、友禅の技術開発に取り組むようになります。また、十二代当主の西村總左衛門が、現代でいうコラボレーションのような形で、京都画壇の日本画家たちに染織品の下絵を依頼したことで、着物の柄のバリエーションが広がっていきました。千總の美術染織品は博覧会への出品や貿易を通じて各国に届けられ、高い評価を得ると同時に、宮内省御用達の称号も頂戴しました。現代も職人とともに京友禅の着物を中心に染織品をつくりあげながら、和のデザインを活用したビジネスも展開しています。

千總本店
着物と帯の展示。着物が宙に浮んでいるように見えるユニークなディスプレイは、建築家、田根剛氏のデザインによるもの

千總本店
着物だけではなくバッグやジュエリーなども並ぶ
太田先ほど千總本店を見学し、手仕事の美しさ、すごさに感動しました。着物だけではなくバッグやスカーフ、ジュエリーといった商品の広がりがあって、それぞれが現代的に見えるけれど、日本の伝統柄が部分的に使われていることにも驚きました。すべての商品に伝統だけではなく、革新的なものが埋め込まれて、アウトプットされている。そんな印象を受けました。
今井そうですね。千總は歴史の長い会社ですが、伝統あるものをただ焼き直しているわけではありません。私が入社する前から、伝統だけでなく現代的なことにも果敢にアプローチしていますし、今も常に進化、革新し続けている会社だと思います。
マスターズドリームは、目を閉じてじっくり味わいたいビール

サントリーホールディングス株式会社 デザインセンター デザインディレクター 太田裕司
太田歴史の長さはかないませんが、私たちのマスターズドリームもビールづくりの伝統を大切にしながら、サントリーのものづくり力で技術革新させて開発した商品です。サントリーの醸造家たちの「世界のどこにもない、心を震わせるほどうまいビールをお客様に届けたい」という夢を実現するため、10年の歳月をかけて、素材、製法にこだわり抜いてつくりあげたビールですので、千總さんのものづくりと通じるところがたくさんあるのでは、と思います。このたび誕生から10年を迎え、今一度、マスターズドリームに込められた情熱をお届けしたいという夢を持って、デザインを一新しました。
今井先日、初めてマスターズドリームを飲ませていただきました。
太田ありがとうございます。いかがでしたか?
今井表現が難しいんですけど、意外な感じというか、驚きが一番強かったです。飲んだ瞬間に「あ、これは違う」と感じました。ありふれた言葉ですが、深さが違うというか。意外な衝撃みたいなものがあって、それが広がっていって体に染み込んでいくような感じでした。ちょっと変かもしれないですけど、誰もいないところで、ひとりで目を閉じて飲みたいと思いました。なんならちょっと暗くてもいい(笑)。
太田めちゃくちゃわかります。私は仕事から帰るのが遅くて、家に着くと家族は先に寝ていて、家が真っ暗なんですよ。そこでカバンを置いて、薄暗いキッチンのライトの下で目を閉じてマスターズドリームを飲みたいなといつも思います。
今井似てますね(笑)。なにものにもじゃまされず、自分に深く突き刺さってきてほしいというか、シンプルにビールを愉しみたいという気持ちになりました。
太田マスターズドリームは食事ともよく合いますが、主役にもなれるんです。より没入していただける、主役感のあるビールだと思います。
今井自然の中で飲むとか、あるいは着物を着た日もいいかもしれません。着物姿で目を閉じてこのビールを飲んだら、気持ち的にはすごく整う気がします(笑)。

株式会社 千總 開発部 今井淳裕
美を生み出すのは、伝統へのリスペクトと細部へのこだわり

今井氏が自然からイマジネーションを得てプロデュースした一枚。植物や鳥が色鮮やかに描かれ、まるで絵画のようだ

上の画像の着物の図案。柄と余白のバランスが緻密に計算されている
太田先ほど、拝見した着物の図案には感動しました。クオリティの高さといい緻密さといい、製品になる前のものなのに、既にすごいパワーを感じました。図案は、たくさんの職人さんが関わる京友禅の工程の起点となるものですよね。図案家さんは責任重大だと思います。
今井図案家は白紙に線を入れていってゼロから一を生み出す仕事ですから、確かに大変です。着物の図案は結構複雑でして、いろんな要素、例えば季節感やストーリー、願いなどを含めて構成を考えていきます。また着物というものは、壁に掛ければ一幅の絵画のように美しく、人が身にまとえば、その方を引き立てることが求められるので、着た時のことを考えて柄の大きさやバランスを調整したりもします。平面と立体、二つの美意識を持たなくてはいけないところが難しさであり、やりがいでもあります。
太田バランスを見て柄や余白を調整する作業は、まさに「デザイン」の領域ですね。日本画や伝統柄の図案自体も空間が活かされていましたし、着物もやはりデザインからできているんだと思いました。
今井図案を描くには技術と知識が必要ですから、新人の図案家は日本画の模写から始めるんです。長い歴史の中で、日本の植物や伝統柄がどのように描かれてきたかを知らなければ、日本文化の背景を持たない図案を描いてしまいますから。図案室には日本画や着物の伝統柄の資料が豊富にあって、調べられるようになっています。
太田素晴らしいですね。何より、着物の図案というものへの誠実さを感じます。外の人が見たら、「なぜ、そこまでやるのか」と思うかもしれませんが、そういう日本文化に対する想い、精度の高さをもって、そこまでやるのが千總さんなんでしょうね。
今井以前、私が図案を担当した着物に、京都の名所十数ヵ所を描いたものがあるんですが、金閣寺や清水寺、京都御所などを描くなかで、それぞれの壁の模様がわからなかったんです。これ、間違えられへんな、と思いまして、全ての場所を訪ねて壁の模様や建物の構造を確認しました。千總のファンの方たちに信頼できる商品をお届けする責任もありますから、間違ったことはできません。そこはとことんこだわっています。
太田今井さんのお話は、そのままマスターズドリームの醸造家たちにあてはまります。醸造家は全員エネルギッシュで、魂を込めてこのビールをつくっていて、社員の私から見ても「そこまでやるのか」という情熱を感じます。私たちもその想いをしっかりと受け継いだデザインをつくり、お客様に受け渡さなくては、という意識を持っています。
日本の美意識とものづくりのスピリットが集約された、墨黒×金のデザイン

太田ありがとうございます。今回のリニューアルでは、マスターズドリームが持つ特別感、そして日本のものづくりのスピリットを感じていただけるようなデザインをめざしました。ものづくりのこだわり、そこから生まれる品格、あるいは揺るぎない自信といったものをイメージして、墨の色に近い黒と金を組み合わせています。また、サントリーウイスキーが持つ「和魂洋才」の佇まいをビールのデザインに落とし込むという挑戦をしました。
今井なるほど。確かに品格を感じますね。
太田具体的には、英文と「夢」という漢字を合わせ、文字の置き方を変えています。実はビールは商品名を中央に置くのが一般的なのですが、あえて文字をずらすことで他のビールとは異なる特別感が生まれました。
今井ああ、だからなんとなく日本っぽいと感じるのかもしれない。日本の空間の美意識って独特なんですよね。中国や西洋ではセンターラインを大事にして、あらゆる装飾がつくられていますが、日本はアシンメトリーにつくり上げていくのが特徴なんです。
太田確かに!着物もそうでしたね。空間の取り方が日本らしさにつながっているのは、すごく興味深いです。
美しさのなかに様々な願いが込められた「束ね熨斗」をマスターズドリームオリジナルで描く
太田今回のキャンペーン※では、景品として千總さんデザインのコースター、グラス、風呂敷が登場します。「束ね熨斗(たばねのし)」と呼ばれる伝統柄を、マスターズドリームのためにアレンジを加えてデザインしていただきました。すごくダイナミックな構図の中に、緻密でメリハリの利いた絵柄が入り込んでいて、まさに千總さんの素敵な部分が詰まっているなと感じます。束ね熨斗はどんな意味を持つ柄なんですか?
※2025年1月28日発売 千總コラボデザイン350ml3缶セット(一部店舗では取り扱いのない場合がございます)

マスターズドリーム×千總 オリジナルコースター
今井おめでたさを象徴する柄ですね。江戸時代に文様化され、一条、一条が伸びやかに流れるような大胆な構成をつくり上げています。元々、熨斗はアワビの身を短冊状に切ったものを紙で包んだもので、「束ね熨斗」には相手を敬う気持ちや清らかさなどの意味があります。また熨斗には、のす、のばすという意味もあって、長寿や永遠性とも結びついています。熨斗自体がおめでたいものですが、さらに松竹梅や菊、橘などのおめでたい意味を持つ植物が描かれた、おめでたい柄の集合体とも言えます。
太田それぞれの柄の意味を知ると、より素敵だなと感じますね。今井さんのお話を聞いていて、千總さんとマスターズドリームには、近しい視点と想いがあることを心から感じました。今回コラボさせていただけたことが、すごく嬉しいです。
今井ありがとうございます。サントリーさんとは、ものづくりに対するスタンス、味はもちろんデザインの細部に至るこだわり、そこにかけてこられた時間というものも非常に似ていますし、日本から世界に向けて何かを生み出していこうという気風も共通しているので、お互い高め合っていきたいですね。私は日本のものづくりには、世界に誇れることが二つあると思うんです。一つは手仕事へのこだわりと繊細さ。もう一つは、日本人が季節感の中で育んできた感受性や情緒からつくられた美意識。千總はどちらにも絶対的な自信を持っています。
太田おっしゃる通りですね。私は日本のものづくりの根っこの部分には、思考して創造する、夢を持って前に進む姿勢があると思っていて、そこも誇れる部分だと感じます。今井さんは、これから叶えたい夢はありますか?
今井着物はもちろん、それ以外でも魅力あるものをつくって、もっと多くの人に触れていただける機会をつくっていきたいですね。心が豊かになったり、幸せな気持ちになってもらえる、そんなものづくりをこれからも続けられたらと思いますし、それが日本だけでなく海外にも広がっていけば、より嬉しいです。
太田私たちもマスターズドリームを、日本のものづくりとして世界で輝く存在にするため努力していきます。本日はどうもありがとうございました。

今井 淳裕 : Atsuhiro Imai
大阪芸術大学卒業後、千總に着物の図案家として入社。18年間図案家を務めた後、2016年から開発部に異動、京友禅の着物を中心とした染色品や、その他の商品企画、開発などに携わる。