サントリー ワイン スクエア
2017年のプリムール試飲週間(※1)が終了しました。前回のラグランジュ便りで、2016年は「特別なヴィンテージにかなりの確率でなる」と報告しましたが、プリムール試飲会が終了した今、クルチエ・ネゴシアン、そしてジャーナリストにも同様のコンセンサスが取れつつあるように感じられます。3月24日にジャーナリストの先陣を切って評点を発表したジェームス・サックリングは、2016年を2009や2010ではなく、1990年に似た偉大な年と表現し、ラフィットやムートンに100点を付けました。ワインスペクテイターもまだ1級の評価は公表していませんが、2級のラスカーズに100点の可能性を付けるなど、サックリング同様ヴィンテージ2016そのものに高い評価を与えています。
プリムール試飲週間への国内外の業界関係者の注目も高まりました。参加者数は前年の二割増しで、6000人の大台を超えたとの事です。期間中は初夏のような好天に恵まれ、参加者たちの表情も明るいものでした。今後のジャーナリストの評価次第では、プリムールで久しぶりのフィーヴァーになる可能性もゼロではないでしょう。
ジェームス・サックリングからは、ラグランジュも過去にない高い評点をもらいました。更に、日本を代表するワインジャーナリストの山本昭彦氏からは、『日本人のひいき目ではなく、2級に肉薄する品質をものにした。』とのコメントとともに、高い評点を頂きました(※2)。山本氏の記事で特に嬉しかったのは、単にプリムールの評価にとどまらず、これまでラグランジュが地道に取り組んできた活動を総括し、『時間とお金はかかったが、国際飲料業界の成功事例と言えよう。』とまでコメントしてくれたことです。
樹を植えてから真価を発揮する樹齢になるまで最低25年、そして仕込まれたワインが年数を経て評価されるまでには更に何年も待たねばならない格付けシャトーの経営とは、マラソンを走りながら、その襷を更に次の世代に繋いでいく駅伝のようなものでもあります。襷の重さを感じながら、遠い目標を見据えて走る走者として、こうした取り組みそのものへの評価というのは、炎天下で沿道から受け取る声援、そして喉を潤してくれる給水所での水のようなものです。今後も果てしなく続く地道な戦いに向け、勇気をくれた記事に感謝したいと思います。
さて、2017年の畑での活動も、例年通り粛々と始まっています。ここで春先までの状況を、まとめておきましょう。雨が少なく平年より少し寒い12月に始まった今年の冬は、1月に強い寒波に見舞われました。1月の平均気温は3.9℃と平年より2.5℃も低く、早朝には -8℃以下になる日が4日もある厳しい冷え込みとなりました。2月に入ると寒さも和らぎ、2,3月の平均気温は平年より約1.5℃高く推移しました。1-3月の総雨量は平年を17%下回り、上半期に年間降水量に届いた昨年とは対照的な冬となりました。2,3月が暖かかったので萌芽は早まるかと予想したのですが、1月の寒波が堪えたのか、カベルネは平年並み、メルロは平年より3日遅れ、プティ・ヴェルドは4日遅れの萌芽となりました。4月に入り初夏並みの暖かい気候が継続していますので、開花に向けてこの遅れはすぐに取り戻されていくと思います。
2、3月に続いて4月としては珍しい好天が継続している状況を単純に喜べず、前半が極端な湿潤気候で後半が暑く乾燥した昨年の真逆にならないかを心配してしまうのは、ワインづくりが農業そのものであることを物語っているとも言えるのでしょう。
椎名敬一
葡萄栽培研究室、ガイゼンハイム大学留学、ロバート・ヴァイル醸造所勤務、ワイン研究室、原料部、ワイン生産部課長を経て、2004年6月よりシャトー ラグランジュ副社長。2005年3月より同シャトー副会長。