サントリー ワイン スクエア
6月まで記録ずくめの天候が続き、平年を3週間以上も上回るペースで進んだブドウの生育にも、7月第2週よりようやく調整期が訪れました。ブルターニュでは、まるで10月のような気候と揶揄される冷夏となり、テレビでは閑散とした海岸を長袖の上着を着て散歩する様子などが何度も放送されていました。メドックもブルターニュ程ではありませんが冷涼な7月となり、平均気温は平年を1℃下回りました。降水量は平年より10%多い程度でしたが、日照時間は平年を20%も下回る結果となりました。8月に入っても冷涼な気候が継続したため、3週間もの貯金のあった生育に大きなブレーキがかかり、3年連続のグランミレジムへの期待には黄色信号が灯り始めた感じです。気を付けなければならないのは、べレゾン(果粒の着色)期間がすごく長くなったため、今年の収穫期間はそれに応じて長期間にわたりそうな事です。また、時折すさまじい熱波(6月26、27日の39℃、8月21日の39℃)があった事、さらには例年に比べ湿度の高い夏になった事が、品質にどう影響するのかも気になるところです。8月上旬には季節外れのセップ茸が豊作であったことは、言い伝えどおりであれば、ワインの品質にはかなりネガティヴな予兆になります。
いずれにしても現時点での平年との比較では、まだ一週間ほど先行した状態はキープ出来ていますので、収穫までの9、10月の天候には期待したいものです。
すっきりしない今年の夏でしたが、明るいニュースがひとつありました。ラグランジュのエイナール社長に、レジオン・ドヌール勲章が授与されたのです。これはナポレオン1世によって制定されたフランスの栄典制度で、当初は軍人(士官)を対象としていたものが、今日では一般にも門戸が開かれたものです。51歳での授与は異例の早さで、ボルドーワイン業界ではおそらく4人目と思われます。エイナール社長は長く予備役活動も継続しており、今年まで予備役軍の南方指令長官(予備役最高司令官4名のひとり)に就いていました。これは正規の軍組織の中でも上位100番程度に相当する高位で、この予備役での功績+民間企業のトップとしての活躍を評価された事が、異例の早さでの授与に結びついたものと思われます。なお、授与の基準には、軍任務や社会への貢献のみならず、人間性の評価も含まれている事も付け加えておきます。勲章の仕組みそのものには個人的に意見がないわけではないですが、ラグランジュでの仲間が、こうした人間性をも含む高い評価がなされた事は、素直に喜びたいと思います。
7月7日には、シャトーラグランジュにてレジオン・ドヌール勲章の授与式が行われ、軍関係者、ワイン業界関係者、そしてエイナール社長の友人や親戚など100名が集い、その栄誉を讃えあいました。
さて、気になるラグランジュでの収穫ですが、白のソーヴィニヨン・ブランに関しては、9月1日頃の開始になりそうです。赤は天候次第ですが、9月中旬での開始を想定しています。今年の収穫期間には、2年前からサントリーよりボルドー大に留学していた篠田健太郎氏がラグランジュでの研修を行う予定です。次回のワイナリー便りでは、ラグランジュの収穫状況を、彼の新しい視点から報告してもらう予定でいますので、どうぞお楽しみに。
※現在シャトーラグランジュの販売は(株)ファインズで行っております。
詳しくは(株)ファインズのホームページをご覧下さい。http://www.fwines.co.jp/
椎名敬一
葡萄栽培研究室、ガイゼンハイム大学留学、ロバート・ヴァイル醸造所勤務、ワイン研究室、原料部、ワイン生産部課長を経て、2004年6月よりシャトー ラグランジュ副社長。2005年3月より同シャトー副会長。