フランスの詩人アナトール・フランスは、まっ白な紙に向かうとよく目まいをおこしたそうだ。和紙ならそんなこともなかったろう。日本の紙はどことなく柔らかでやさしい。温かみがあってほっとする。和紙の原料は楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)等で、その繊維を水にくぐらせ簀(すのこ)でこすのだが、日本には流漉(ながしす)きという独特の漉き方があって、簀を微妙に揺り動かしながら、手先一つでいろいろに漉きこなすのだそうだ。いかにも日本人の器用さだが、だから流漉きの和紙は、繊維が水の流れのようにきれいに縦に流れて見える。手の技に命を吹き込まれ、清らかな水に磨かれた、そんなところが和紙とウイスキーはとても似ているなァと思ったら急に山崎が飲みたくなってきた。
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