箸を噛んではいけないと母によく叱られた。考えてみれば、箸の使い方はわが家の躾けの大きな部分を占めていたように思う。生後百日目に行うお食べ初め、箸初めの儀式は、小さな茶碗に柳の箸、赤飯に尾頭つきのお膳で、早く一人前に御飯が食べられるようにと祝うしきたりだが、ある人にいわせると、日本人の一生は箸に始まり箸に終わるのだそうだ。日本は聖徳太子が遣随使の帰国歓迎の宴で使ったのが最初らしいが、その頃の箸はきっと正倉院の御物にあるような、竹を中ほどで折り曲げたピンセットのようなものだったろう。さてわが家では湯上がり時間になると、山崎と氷とグラスの前に、箸がきちんと揃えてある。妻の実家のは躾がよかったらしい。
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