ウイスキーの貯蔵庫に初めて足を踏み入れて、まず思ったのは結構いい匂いがするなということだった。夏になると眠っていたモルトが目を覚ましかけ、少しざわめき始めるらしいのだ。ウイスキーのゆりかごはホワイトオークの樽。堅くて、木目のまっすぐな大木に育つこの木でなければならないという。ウイスキー作りはとにかく頑固なのだ。ところで、オークは樫だとばかり思っていたのだが実は楢なのだそうで、ホワイトオークは日本のミズナラに近いらしい。オークといえば、ヨーロッパでは「キング・オブ・ザ・フォーレスト」つまり森の王様と呼ばれているほどの木で、そういう貴重な木の樽で、五年十年十二年、山崎モルトは眠り一人前になるわけだ。
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