私はカナヅチである。いや浮くことは浮くから正しくはカナヅチとはいえぬ。が、泳ぎはまるでいけない。妻や子に笑われながら、夏は浮袋片手に水に浮いているだけである。これを浮き身の術という。しかしこうして体の力を抜きぼーッと大の字に水に浮かんで空を眺めるのもいいもんだ。水と一体になったような、無重力状態の不思議な安堵感には、禅の無の境地もかくやと思わせるものがある。しかも泳ぎは腹式呼吸だそうで、ますます禅に近い。呼吸が深くなり、自律神経がコントロールされしかも水の中にいると水圧が体全体にかかるため全身マッサージされたようで、身も心もリラックス。ああ、今や私は山崎のグラスに浮かぶ一片の氷になったようである。
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