真夏の夜空に開く菊、牡丹、柳。ヨーロッパから鉄砲と共に渡ってきた花火も、今や日本が世界有数だ。花の中にもう一つの花が咲く、八重芯。消える寸前に花弁の先がきらりと光る、露。特に一つの花火で二度三度と色が変化する手法は外国には例がないという。花火作りは手間暇のかかる手作業である。薬品を調合し、菜種などを芯に球に練り固める。何層にも重ね、和紙を張り合わせてゆく。長期に及ぶ、緻密で熟練を要する工程だ。しかも作品の姿が残らない。天に数秒、華やかな錦絵を描くのみ。さて、今宵。いつものように味わうピュアモルト。琥珀色の大輪が幾重にも開く。この一杯に込められた12年の歳月が、一瞬の鮮やかな記憶となって喉をわたってゆく。
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