近ごろは大抵のものが年間を通じて食卓に上る。とはいえ季節を強く感じさせる素材も、まだ多い。たとえば牡蠣。Rの月が過ぎると姿が消える。しかし、美食家はRが付かない月にも、ひそかに牡蠣をめざす。イワガキ、通称夏牡蠣。日本海などの、波荒い岩場に棲み、旬は7月と8月だけ。5年物7年物という大物さえいる。養殖はできないので、その地まで出向いての対面。レモンをきゅっと絞って真夏のオールスター。舌にとろける感触が堪らない。海からこれほどの役者を迎えるならば、山からも、相応の作品を用意したい。清涼な谷間で深く静かな眠りについていた12年物のピュアモルトを当てる。ひそやかな自然の滋味が響きあいその輝きをいちだんと増していく。
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