将棋界で近年、先手の勝率が高くなったのではないかといわれる。序盤戦の研究が進み得意な戦型に誘導できる、という事らしい。やがて囲碁のようにハンデを付けねばならぬ時がくるのだろうか。ところで、先手と後手は一枚だけ違う駒を持つ。王将と玉将である。目上の者が王を、もう一方の相手は玉を持つのだが、元来はどちらも「ぎょく」だったという。王様ではなくて、珠玉の玉だったのである。盤面には、玉、金、銀、桂、香と、価値ある美しいものの名が並べてあるのだ。そう思うと、そこに水、麦、樽、時と続けたくなる。持ち時間十二年。琥珀に輝くピュアモルトを注ぎ、眺め、潤す。この手順が回ってくれば、もう日常の秒読みに追われることもない。
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