人は大体一晩に二度か三度夢を見るそうだが、春は一つ位多いかもしれない。ところで夢を見るにも上手下手があるようだ。これも才能ということだろう。下手な人は折角いい夢を見ても、朝になるとキレイサッパリ忘れてしまう。「夢は思い出である」といったのはヴァレリーだったか、とにかく思い出さぬことには、夢はつかまらないのである。トルーマン・カポーティに夢を買い集める男が出てくる短篇があるが、きっと彼も夢をつかまえるのが苦手だったのだろう。夢は無意識の声を伝えるメッセンジャーであり、未知の世界の入り口である。そう考えると夢見下手は随分損をしているような気がするが、その点グラスの中の琥珀の夢は、逃げ出すことがない。
|