歌舞伎の舞台が華境に入り、役者がここぞと見得をきる。と、すかさず「音羽屋!」。修練の声が飛び、そのタイミングがまた絶妙で、舞台とよほど息がぴたりと合っていなくては、ああ小気味よくはいかないだろう。その屋号も三十程あって、音羽屋といえば尾上梅幸、松緑、菊五郎、成駒屋といえば中村歌右衛門、松島屋は片岡仁左衛門、中村屋は中村勘三郎。さて、では山崎屋といえば、河原崎権十郎、とすんなり答えられるようなら、あなたは相当の歌舞伎通である。ところで近頃テレビの歌舞伎中継も少なくなった。ソファでごろ寝、ウイスキーでも嘗めながら、名優のアップに「山崎屋!」。グラスを持つ手が思わず見得を切るのも悪くないものなんだが。
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