ビリヤードが若い人たちの間で大変な人気だという。何やら懐かしい。近頃は色とりどりに16個の球がグリーンのラシャの上を駆けめぐる、ポケットゲームが主流だそうだが、紀元前四〇〇年頃にギリシャでこの遊戯が生まれた時は、どうやら球は二つしかなかったらしい。三つ目の赤い球が登場したのはフランスで、18世紀になってからである。日本では例の鹿鳴館や偕行社辺りで球を撞く音が聞こえ始めたのが明治5、6年頃。9年にはちょっとしたブームだったというから、紅白の象牙の球がコツンコツンとぶつかり合うあの心地よい音は、まさに文明開化の音だったわけだ。ところで、私の文明開化は、若者文化の風に吹かれて、グラスでチリンと鳴っている。
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