花や植物を詠み込んだ歌は「万葉集」にも数多いが、中でも多いのは梅である。それが「古今和歌集」になると、春の歌一三三首のうち桜が70首と断然多く、梅はわずかに18首。どうやら日本人がことさら桜を愛好するようになったのは平安時代のことらしい。さて桜といえば染井吉野だが、この桜の由来はそれ程古いものではない。江戸の染井村、というから現在の駒込辺りの植木屋が、江戸末期から明治の初めに売りひろめ、派出な花振りで人気を得たが、樹齢も短く、古今の名木と呼ばれる老樹に、染井吉野は見当らぬ。彼岸桜など何百歳というのが珍しくないが、やはり桜も、ウイスキーも、歳を経て味のある花が咲く。何はさて、早くもグラスは満開である。
|