ジュネーブ湖畔のニヨンの市役所の日時計には、「わたしを見つめすぎる人は時を失う」と書かれているそうである。そういわれてみると、私たちはちょっと時計を見すぎるようだ。殊に最近の時計はデジタルだから、一分の違いが殊更大きく感じられ落ち着かない。ところで、気持ちよく物事に熱中している時、私たちはよく時間を忘れる。その時私たちは、時間というものがなかった大昔の自然に戻っているからだ。ある人はその状態を「文明から休暇をとる」と表現している。遊ぶということは時計を忘れることなのである。例えば休日の午後、琥珀の一杯に時を忘れるのも立派な遊び。ただしこの場合余程いいウイスキーでないと、時を忘れるまでは至らない。
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