深い森の空気に包まれていると、肌から酸素が浸み込んでくる。そんな感じがある。内蔵のすみずみに、森の匂いが浸み入ってゆくのが判る。この森の匂いの成分が、体にも心にもいいらしいということで、俄に森林浴が脚光を浴びている。ところで、フィトンチッドというその匂いの成分は、実は植物が自己防衛のために、黴や細菌や虫などを殺す物質なのだそうだ。それがあの馥郁たる木の香りになるのだから、自然は神秘的である。考えてみれば、ウイスキーも森林浴をしているようなもの。谷間の霧に包まれ、樽の木のさまざまな成分を呼吸して、不思議な琥珀の液体に育つ。だから耳を澄ますと、ウイスキーは、しん、としている。
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