『ドゥーリン・ダルトン』の歌詞のなかに“Red-eye Whiskey”というワードが登場する。“痛みを癒すために飲む”というフレーズが昔から気になっているのだが、レッド・アイ・ウイスキーとはいまだに何かよくわからない。
19世紀の酒場のことを記したアメリカの文献を探ると、よくレッドリカーという表現が見られる。これはライウイスキーやバーボンウイスキーのことを語っている場合が多い。とくに上等なバーボンを指すと記したものもある。
一方で何が入っているのか不明のひどい混成酒、悪酒、安酒のなかに、レッドの名がつくものも多い。キャッチフレーズがついているものもあり、脳天が吹っ飛ぶレッド・ダイナマイト、流血騒ぎの好きな厄介者のこころをくすぐるレッド・ディスターバンス、アリゾナでつくられた強くて粗悪な酒レッド・ドッグ・ウイスキー、そんななかにキャッチなしでレッド・アイ・ウイスキーも加えられている。
歌詞の意味合いとして、おそらく粗悪な安酒でこころの痛みを癒すということなのだろう。
アルバムを聴きながら現代を生きるわたしは上等なレッドリカーを飲む。ふさわしいのは「ブッカーズ」。深い熟成感、力強さがありながら60%以上あるアルコール度数を感じさせないしなやかさがある。このタフでありながら優しさにあふれたクラフトバーボンがイーグルスのサウンドを抱きとめ、包み込み、こころの壷を満たしていく。
4曲目にグレン・フライが気だるく歌い上げる『テキーラ・サンライズ』があるが、それさえもクラフト・レッドリカー「ブッカーズ」が優しく抱擁する。
次の5曲目にアルバム名に冠した『デスパレード』がある。これは説明するまでもなく、多くのアーティストたちにカバーされているバラード調の歴史的名曲だ。そろそろまっとうな人生を歩んだらどうだと、ドン・ヘンリーの乾いた歌声がならず者を諭し、「ブッカーズ」の熟成感が叙情的、感傷的な潤いをもたらす。
ドゥーリン=ダルトン・ギャングが各州を震え上がらせた期間は極めて短い。1898年にはメンバーのほとんどが射殺されたり亡くなったりしている。
ところがすぐさま新たな強盗団が登場した。元祖ワイルドバンチことドゥーリン=ダルトンたちを真似たブッチ・キャシディのワイルドバンチである。
1899年、まずはワイオミング州で列車強盗を起こす。その後、彼らが事件を起こし、また逃亡した先はワイオミングをはじめ南はニューメキシコ州、そしてコロラド州、北はモンタナ州、その他カンザス、ユタ、ネバダ州といったあたりの当時まだフロンティアの名残り多い土地である。とはいえ、ならず者たちの横行は長くはつづかない。生き残ったメンバーは逮捕や釈放を繰り返しながら、1912年のテキサス州での列車強盗を最後に自然消滅している。
彼らの生き方を映画化したものがポール・ニューマンとロバート・レッドフォードが演じた『明日に向かって撃て!』(1969年公開)である。20世紀初頭を向かえ急速に発展するアメリカの裏側には、こんな粗い時代があった。
(第40回了)