バーボンウイスキー・エッセイ アメリカの歌が聴こえるバーボンウイスキー・エッセイ アメリカの歌が聴こえる

3

ブルーグラス・ステート

戦争から独立戦争へとつづいた政治的要因が重なって彼らはアパラチア山脈を超えて西へと移っていく。ウイスキーもケンタッキーの地でライウイスキーから、トウモロコシを主原料とするバーボンへと移り変わっていく。それと同時に馬も持ち込まれている。とくにアイリッシュの活躍はめざましい。

アメリカンウイスキーの綴りにはWHISKEYとWHISKYの両方が存在する。Eを入れることが一般的なアイリッシュの影響力が強かったことを物語っているのだが、馬の繁殖、飼育においても同様だった。

古くからイングランドとの歴史的因縁が深く、品種改良によってイングランドで誕生したサラブレッドの繁殖、飼育もアイルランドに伝わる。現在もアイルランドは、イギリス、フランスの競馬界にサラブレッドを供給している名馬の産地として知られている。

そんなアイルランドからの移民が増えるにつれ、ウイスキーづくりに精通した人たちだけでなく、馬の調教にも秀でた人たちも集まってきたのである。ケンタッキーが世界的な馬の産地となるのに、アイリッシュがとても重要な役割を果たした。

さらには自然が味方した。ブルーグラス・ステートと呼ばれる緑豊かな牧草地が広がっている。旅人たちの多くは、ゆるやかなうねりの丘陵地をサラブレッドがしなやかに駆け、草を食む清々しい景色に惚れ惚れとする。

ケンタッキー州一帯の地盤は石灰岩(limestone)。その地下を流れる水はライムストーンによって濾過され、良質の清水となって湧き出ているのだが、これがバーボンウイスキーにとって重要なプロセスウォーター(仕込み水)となっている。さらにはブルーグラスにはカルシウムやその他ミネラルがたくさん含まれることになり、それを食べて育つ馬は立派でしなやかな肢体に成長すると言われている。


悲しいかな、こんなことを述べながら、今年もケンタッキーダービー観戦へは行けない。悔し紛れに、日本のバーで飲むミントジュレップのほうがはるかに旨い、と悪態をつく。観客数を考えたら、現地では悠長に構えてサービスしてはいられない。バーボンやアメリカンウイスキーにミントのエッセンスとシュガーを溶かし、ボトリングしたミントジュレップを使ってガンガンつくっていると聞いたからだ。

日本のバーテンダーが、穏やかな甘みと温かみのある香ばしさを抱いた深い熟成感のあるジムビーム ブラックラベルを使い、吟味したミントを繊細なタッチで薫らせた冴えた味わいの一杯が最高に決まっている、と自分を慰める。

とはいっても、やはり一度は"My Old Kentucky Home"の合唱の中に加わってみたい。しかしながら日本ではイベントで観客全員が合唱できるような名曲がない。国歌斉唱のあとに「つづきまして」と老若男女、世代を問わず歌えるものがないのだ。何故なんだろう。ちと淋しい。

第3回了

for Bourbon Whisky Lovers