お酒の営業から、外食産業のコンサルタントへ。モノを売る仕事から、サービスを売る仕事へ。正直言って最初は困惑した。何をしている会社なのかさえもよくわからぬままのスタートだった。2002年に入社して以来、仙台支店の営業として活躍していた彼に、グループ会社であるエイチ・ビー・アイへの異動が言い渡されたのは入社7年目のこと。同社は外食企業の原材料調達や物流の改善、店舗管理、企画・開発といった業務に対して、コンサルティングと実務のサポートを行う会社だ。社員のほとんどが中途採用で、IT系コンサル、外食の業態開発、コンビニエンスストアの商品開発など、さまざまなキャリアを持った人たちの集まりだった。
異動して間もないころ、同年代の社員からこう聞かれた――「何ができるんですか?」「お酒が売れます!」――答えてはみたものの、はたと考えた。「おれ、酒をとったら何も残らんなあ」と。その同僚の一言が問題意識を持たせるきっかけに。社員十数名という小所帯の中で自分は一体何ができるのか、試行錯誤の日々が続いた。もちろん最初からコンサルができたわけではない。まずはメンバーに同行し、プロジェクトの一員として議事録を書く仕事から始めた。週末になると図書館に通っては、経営、サービス、情報システム、ファシリテーション等々、仕事に役立ちそうな本を必死で読みあさり、その数は1年間で120冊にも。勉強しなければみんなの知識には追いつけない、そんな気持ちに駆られていた。
メンバーの力も借りて、最近手がけたのは人気チェーン企業の基幹店改善プロジェクト。繁盛店ゆえに忙しく、接客サービスがおろそかになってしまうという問題点を抱えていた。まずは職務と権限分担を明確にするなど仕組みづくりから始め、教育・研修マニュアルの標準化をサポートした。数値目標の伴うアクションプランを立て、目標の日付に達成できたかを毎週会議で確認し、出した約束を守り続けてもらうことを提案した。現場の努力もあって9カ月でプロジェクトを完遂し、先方の社長からも評価を得ることができた。
それでも、サービスを売る仕事は難しいと感じている。もらうお金よりも実績が大きくないと、信頼は得られないし、自らも悔しい思いをすると考えるからだ。また、成果といっても企業によって着地点は異なり、一つの定形があるわけではない。ずっとモノを売ってきただけに、そのギャップを感じることは少なくないが、同時に会社とは何か、経営とは何か、次第に目線が広がっていく自身の変化を感じている。
今後、彼が力を入れていきたいのは、業務の半分を占める営業活動。今はサントリー本体からの営業紹介を獲得するため、関西地域の営業部署などを回って、自社のPRに努めている。エイチ・ビー・アイには各分野の専門家がいる。メンバーがコンサルとして活躍できる場を広げ、最高のパフォーマンスを発揮できるような手伝いがしたい。そのために自分ができる役割は仕事を取ってきて売上を伸ばすこと、そう考えている。