大学時代軟式野球部の主将兼監督を務め、数十人を束ねていた彼は、「母校のため、仲間のため」という思いを背負ってこそ力を発揮する自分の性格に改めて気づく。そして就職活動中、会社、同僚、商品への愛情が一番強いと感じた企業がサントリーだった。「君のように熱いやつがほしい」と誘われ感激した彼は、この会社のために力を尽くして働こうと決意する。
しかし、最初はその意気込みが空回りすることも多かった。配属された仙台支店では山形の酒量販店の担当に。右も左もわからない中、「元気よく、フットワーク軽く」を心がけ、がむしゃらに営業した。手探りしながらもどうにか自分のスタイルらしきものを見つけられたと自信を持ちはじめた頃、あるお得意先から「もう二度とくるな」と怒鳴られ、出入り禁止を言い渡された。新人ゆえ、まだ融通がきかない彼は四角四面に対応することしかできず、お得意先に誤解されることも多かったのだ。
「相手に信頼されていない自分が腹立たしかったし、悔しかった」。営業は数字を上げるのが使命だが、心が伴っていなければ意味がないと猛省した。そして「誠実に真摯に」を自らに課し、初心に帰って再スタートを切ったのだった。
「もう一段ステップアップしたい」という願いが叶い、全国展開するチェーンスーパーの本部を担当する広域営業本部への異動が決まったのは28歳のときである。それは「イチローが大リーグに臨んだのと同じくらい」大きな挑戦だった。喜び勇んで出社した彼だったが、その喜びが重圧に変わるのに時間はかからなかった。仕事はビールと低アルコール飲料の営業で、担当企業は市場の販売動向さえも覆すパワーを持っている大手スーパー。圧倒的スピードで販売傾向の変化を見極めるお得意先で、求められる質もスピードも尋常ではなかった。そんな中、彼の成績如何でサントリー全体の売上にも天と地の差が出るという現実を前にする。毎日プレッシャーに押し潰されそうだったが、その一方で「営業としてこれ以上のやりがいはない」と自らを鼓舞してもいた。
あれから2年、相手が求めている以上のものを提案すべく、日々真摯に誠実に仕事に取り組んできた。最近その成果が見えはじめている。現在の目標は「担当するスーパーで、2012年にビールの売上数量でシェア1位メーカーになること」。全社シェアが業界3位ということを考えれば簡単なことではないが、彼は達成する気満々だ。先輩から渡されたバトンを無事引き継ぐ日まで、プレッシャーとの戦いはまだまだ続く。