2005年の初放鳥から19年が経ち、全国26カ所( 2023年12月時点)で 繁殖をするようになりました。
徳島県鳴門市もそのひとつ。 2017年に初めて繁殖に成功し、 現在まで7年連続でヒナが巣立っています。
しかし、徳島県で子育てをするコウノトリは、今のところこの1ペアだけ。より安定的な繁殖地にするためには、第2、第3の繁殖が望まれます。
それを実現するために立ち上がったのが、 認定NPO法人とくしまコウノトリ基金
(以下とくしまコウノトリ基金)の人々。
コウノトリのエサ場となるビオトープを整備するなど、 様々なチャレンジが始まっています。
これまで「サントリー世界愛鳥基金」では、 (公財)日本生態系協会を通じて 「コウノトリ定着・広域ネットワーク推進プロジェクト」の一環として とくしまコウノトリ基金の活動に 助成を行ってきました。
今回、その助成がどのように活かされ、 どんな成果が得られたのか、 鳴門市の現場を訪ね、お話をうかがいました。
「本当に広大なレンコン畑だねぇ」
私たちが、とくしまコウノトリ基金の活動する徳島県鳴門市を訪ねたのは、2024年5月中旬。広大なレンコン畑を見たサントリー世界愛鳥基金運営委員の先生の口から、思わずこんな言葉が飛び出しました。その広さは、なんと約400ヘクタール。徳島県産のレンコンは日本のトップ3に入る生産量を誇るといいます。
じつはここが鳴門市のコウノトリの生息地。レンコン畑は、1年のうち11ヶ月間は水があり、水辺の鳥であるコウノトリの生息環境としてぴったりなのだそうです。さらに、長い間、農薬や化学肥料を減らした環境に優しい農業をおこなってるため、コウノトリの食べものとなる水生生物がたくさん生息しており、それを狙って多くの鳥が集まってくるのです。
徳島に飛来するコウノトリの数は年々増加し、2023年は、個体確認ができたものだけで147羽が当地を利用したといいます。これは日本の野外に生息しているコウノトリのなんと約4割にもなり、いかに鳴門市が重要な生息地であることがわかります。
鳴門市は、コウノトリの繁殖地でもあります。2015年に兵庫県から飛来した「ゆうひ」と「あさひ」の2羽が営巣を開始し、2017年に兵庫県豊岡市周辺以外では初となる繁殖に成功。それ以来、毎年ヒナを育て上げ、累計で24羽の徳島生まれのコウノトリが誕生しています。
私たちが視察したときも、「ゆうひ」と「あさひ」のペアは子育ての真っ最中で、4羽ものヒナの面倒を見ていました。4羽は、コウノトリが1度に子育てをする最大羽数で、この鳴門市がいかに食べものが豊富な場所であるか物語っています。
一方、毎年順調に繁殖が続けられているものの、徳島県で営巣するペアはこの1組だけです。より安定的な繁殖地になるためには、第2、第3のペアの営巣が期待されますが、未だそれは実現できていません。
「夏のエサ場不足が問題なんです」
そう話すのは、今回、現場を案内してくださったとくしまコウノトリ基金事務局長の柴折史昭さん。夏の3ヶ月ほどはレンコン畑が葉や茎で覆われてしまい、コウノトリが食べものを捕れなくなってしまうのだそうです。また、エサ場に適さない耕作放棄が増えるなどの影響も加わり、新たな繁殖ペアの分までの食べものが得られない状況なのだといいます。
夏のエサ場不足をなんとか解消したい。そんな思いから、とくしまコウノトリ基金では、2020年から耕作放棄地を利用して、夏でも植物に覆われない新たなエサ場となるビオトープの整備を進めています。
これまで整備したビオトープは、大谷地区、牛屋島地区、大島田地区の3カ所で、広さは4.5ヘクタールほどだそうです。
今回の視察では、牛屋島地区と大島田地区の2カ所をご案内いただきました。なかでも牛屋地区のビオトープは、「サントリー世界愛鳥基金」の助成によって誕生したとのこと。
ビオトープとはドイツ語で「生物がくらす場所」という意味の言葉です。その名の通り、今回視察したビオトープには、ヨシ原や水田などの多様な環境があり、生きものが行き来できる魚道など、より多くの生物がくらせるための様々な工夫が見られました。
実際に、ビオトープを整備したところ、たくさんのフナやドジョウが生息するようになり、多くのコウノトリが利用しはじめているそうです。
レンコン畑が主な生息環境である鳴門市のコウノトリ。徳島県特産のレンコンがあるからこそ、この地でコウノトリが繁殖し生息できることが、今回の視察でよくわかりました。そして、これから先、ずっと農業がおこなわれていくことが非常に重要であることも理解できました。
そうした地元の農業を支えていく仕組みとして、とくしまコウノトリ基金では、レンコンをはじめとする地元の農業を応援する活動の一環として、コウノトリをシンボルとした商品開発や販売促進をおこなっているそうです。そして、その売り上げの一部は、とくしまコウノトリ基金の活動への寄付になっているとのことでした。
「最初は農家の人が、飛んできたコウノトリを定着させようと動いたんですよね」
今回の取材でいちばん印象に残った言葉です。ともすれば厄介者と捉えられるこの大きな鳥をむしろ歓迎し、鳥獣保護区に指定するようにレンコン農家さんが働きかけたという話を聞いて、本当に驚きました。
日本有数のレンコン畑と環境意識の高い農家さんの存在。そして、とくしまコウノトリ基金の人々の活動。それらが全て揃っているからこそ、日本のコウノトリの約4割もが鳴門市を生息地として選んでいる。そんなことを実感する視察でもありました。
新たな繁殖ペアを誕生せさるためのビオトープの整備は、まだ始まったばかりです。今後、この活動を応援する輪が広がっていけば、徳島県で繁殖する第2、第3のペアが誕生する日はそう遠くないかもしれません。
そして近い将来、徳島県が兵庫県に次ぐ、コウノトリの一大生息拠点になるのではないか、そんなことを思いながら取材を終えました。